ヌートバーを変えた…超大物との“合同練習” 後半戦に大躍進、指揮官が語る伸び代
ヌートバー連載第6回…後半戦に長打力がアップしたワケ
野球日本代表「侍ジャパン」に日系選手として初めて招集され、3大会ぶりの世界一に貢献したカージナルスのラーズ・ヌートバー外野手。今季の残り試合も1か月半となったが、前半戦は左親指や腰の怪我に見舞われ納得できる打撃ができなかった。しかし、後半戦を力強いスイングで邁進する彼が敬愛するノーラン・アレナド内野手との秘話を明かした。Full-Countでは、 MLB公式サイトのカージナルス番ジョン・デントン記者の取材をもとに、等身大のヌートバーを粗挽きする月2回の連載「ペッパー通信」をお届けしている。第6回のテーマは、伸び代について。【取材:ジョン・デントン、構成:木崎英夫】
ちょうど1か月前の当コラム(第4回)で打撃をテーマにしたが、今回は長打力について掘り下げる。
移動日で試合がなかった13日(日本時間14日)までのヌートバーの打撃成績は、12本塁打、38打点。108試合の出場で14本塁打、40打点だった昨年と比べると、43試合を残す今季は自己ベストが見込まれる。
7月14日から始まった後半戦で、7本塁打を放っているヌートバーの打撃にはこれまでにない力強さが見て取れる。数字からもその一端がうかがえる。打者が1打席あたりにどれだけチームの得点アップに貢献したかを評価するセイバーメトリクスの指標「wOBA」で、ヌートバーは速球に対してホセ・アルトゥーベ(アストロズ)と並びメジャー2位の.490を誇る。ちなみに1位は.510の大谷翔平(エンゼルス)である。
「wOBA」の数値を見て思った。“開眼”ではないか。水を向けた。
「開眼ねぇ……。そうとはまだ思えないけど。でも、僕が感じているのは、簡単にいうと、“ボールを強くたたくこと”が実践できているということ。これは大きいかな」。こう実感するヌートバーが強調したのは、オールスターブレーク(7月10日~13日)を「とても大事に過ごしたこと」だった。
球宴休みにアレナドと打ち込み「僕は人に恵まれている」
シアトルで行われたオールスター戦の翌日だった。カージナルスのチームメートで兄のように慕うアレナドが自宅のあるカリフォルニアのサン・クレメンテに戻ってきた。アレナドに連絡を入れるヌートバーは実家から南へ車を飛ばした。打撃練習場を持つアレナドとケージで打ち込みたっぷりと汗を流した。
「いくつかの修正ポイントを指摘してくれた。そこを意識すると、一番のネックだったスイングの出力を邪魔している動きがわかった。ノーランが打っているのもじっくり観察したんだ。参考にできる部分がいくつもあった。同じチームにいても好打者と一緒にスイングできる機会はそう多くはないから。1秒も無駄にしたくなかった」
年俸40億円を超えるスター、アレナドは寛ぎの時間を犠牲にしてヌートバーとバットを振り、互いの打撃論を交わし、わずか36時間の滞在で後半戦初戦の地セントルイスへ戻った。2人には真摯なる継続ができる野球への情熱がある。ヌートバーは胸に手を当て言った。
「僕は人に恵まれている」
ヌートバーの後半戦の打率は.333、OBP(出塁率)は.432である。打撃の総合的な貢献度を表すOPS(出塁率+長打率)は驚きの1.048を弾き出す。見た目にも、そして数値にも表れる長打力を携えた彼の打撃を指揮官はどう見ているのだろうか。
「数年先には25本から30本の本塁打をコンスタントに打てる打者になっていくと思う。選球眼がいいが、そこをしっかりというなら、ゾーンとの境界に来るボール球に自制をかけられるということ。辛抱強さというかね。ここまで、ボール球を振る率はフアン・ソト(パドレス)に次いでメジャーで2番目に低い35.6%。得点チャンスを作れる信頼の置けるバッターだ」
オリバー・マーモル監督はつけ足した。
「選手の伸び代について触れるのはあまり好きじゃないんだが、彼の潜在能力はかなり高いと感じている。打球速度が速く悪球を追いかけない打者というのはそうはいない。打つべき球を強く打ち抜ける能力を持つ打者が正しい姿勢で野球に取り組んでいるのだから、その将来像は描けるよね」
「今は本当にいい方向に進んでいる」
ヌートバー自身は、これからをどう見据えているのだろうか。
「4月と5月に怪我をして、前半戦はいいスイングができていなかったから正直、もどかしかった。でも、今は本当にいい方向に進んでいると思う。25本を打てる打者になれるかって? うーん、そうだね。無理だとは決して思えなくなっているかな。でも、それを実現するためには、まだまだ埋めるべき余白もたくさんあるから、頑張ってやっていきたい」
「人に恵まれている」の声が耳に残った。
球史に名を刻むであろう32歳のアレナドと明日を目指す25歳のヌートバーが共有した7月半ばの数時間を知って思った――。
情熱としかるべき努力が理想と現実の段差を埋める、と。
(「MLB公式サイト」ジョン・デントン / John Denton)