10-0からの逆転負けが転機 夏・秋連続4強の大躍進…高校野球に広がる“慶応イズム”

夏、秋の千葉大会でベスト4に進出した千葉商大付【写真:片倉尚文】
夏、秋の千葉大会でベスト4に進出した千葉商大付【写真:片倉尚文】

千葉商大付は今夏ノーシードから4強、秋は敗者復活戦から4強に躍進

 今年の夏の甲子園は慶応が107年ぶりに優勝。自主性を尊重した「エンジョイ・ベースボール」を掲げて躍動し、栄冠に輝いた。丸刈りや厳しい上下関係、指導者の管理といった従来の“慣習”から脱却し、成果を上げる高校が近年は増えている。千葉商大付もその一つだろう。今年の夏、秋の千葉大会でいずれもベスト4に進出。吉原拓監督は躍進の要因に「スポーツマンシップ」を選手が学んだことを挙げる。
 
 千葉県の高校野球で今年、旋風を巻き起こしたのが千葉商大付だ。夏季大会ではノーシードから勝ち上がり、準々決勝で優勝候補の木更津総合を8-4で破って4強進出を果たすと、秋季大会では敗者復活戦から進撃を続けて4強入り。東海大浦安との準々決勝では計4本塁打を放ち18-11で打ち勝つなど、群雄割拠の千葉県で強烈なインパクトを残した。

 2019年に就任した吉原監督は「スポーツマンシップを学び、選手にその意識が備わってきたのが大きいと思います。勝利を目指す中で、選手には試合を愉しんでもらいたい。試合が行われれば、どちらかは負けます。グッドルーザー(よき敗者)を目指さないといけないと思います」と語る。

 スポーツマンシップ教育を展開する中村聡宏氏(日本スポーツマンシップ協会代表理事、立大准教授)が千葉商大の講師を務めていた関係もあり、昨年、部員を対象に講演してもらった。スポーツマンには「尊重」(相手・審判・ルールを大切に思う気持ち)、「勇気」(失敗を恐れずに挑戦する気持ち)、「覚悟」(困難を受け入れ全力で愉しみ抜く)という、3つの気持ちが求められるという。

千葉商大付・吉原拓監督【写真:片倉尚文】
千葉商大付・吉原拓監督【写真:片倉尚文】

春季大会予選で10-0から敗戦…スポーツマンシップの徹底で一気に飛躍

 こうした言葉の意味を痛感したのが、今年の春季県大会予選での敗戦だった。11-12で市川にサヨナラ負け。6回表を終えた時点では10-0とリードし、コールド勝ち寸前だったのに終盤に崩れて大逆転負けを食らった。「ショックすぎてグッドルーザーになれませんでした。いつかは負けるんだから、負けた時に納得できるだけの準備をしないといけない。そう考えた時にスポーツマンシップと合致すると気付いたんです」と吉原監督は振り返る。

「グッドルーザー」とは「他人のせいにしたり言い訳したりしない」「負けを認め勝者を称えられる」「敗因を考え反省し、再び努力できる」と中村氏は定義する。こうした考えを選手が吸収した結果、夏の快進撃に結び付いた。チーム内では「楽しまなきゃ損でしょ」「ミスしてもいいから前にいこう」といったポジティブな声が上がるようになったという。そのメンタリティを後輩も継承し、秋も4強入りした

 夏季大会は7試合で54得点、秋季大会は9試合で96得点。打ちまくった要因も“意識改革”が根底にあるという。「本番でしっかり振れたのは、スポーツマンシップを学んでメンタルをしっかりコントロールできたからだと思っています。初球から振っていくのは勇気がいりますが、選手はどんどん振っていきました」と指揮官はうなずいた。

 千葉商大付は今年、高校野球のリーグ戦「Liga Agresiva(リーガ・アグレシーバ)」に参加した。8月下旬にはリーガに参加する千葉商大付、県船橋、君津商、松戸向陽、白井、四街道の6校が一堂に会し、“混合チーム”を作って試合を実施。中村氏の講演も行われ、参加した高校の選手たちはスポーツマンシップの真髄に触れた。思考の変化でチームは変わる。リーガという新たな試みを経て千葉商大付は来年どんな姿を見せてくれるだろうか。

(片倉尚文 / Naofumi Katakura)

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