なぜ岩手から世界的逸材が生まれる? 大谷翔平父が思う土壌…鍵になる「時間の使い方」
大谷徹監督率いる岩手・金ケ崎リトルシニア…意識の高い選手が集結
大谷翔平選手の父、大谷徹監督が率いる岩手・金ケ崎リトルシニアには、県内の各地から部員が集まる。内陸部にあたる地元・金ケ崎町の近隣地域はもとより、遠くは太平洋が望む沿岸地域の宮古市から通う中学生もいるという。
全国的に見れば、少年野球をはじめとする野球人口全体の数は減少傾向にあるのが実情だろう。侍ジャパンが世界一に輝いたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の盛り上がりもあって、野球に関心を抱く子供たちが増えたという話は聞く。だが、その数がそのまま野球人口増加に直結するかと言えば、そう単純な話ではない。岩手県内でも、中学硬式野球クラブや高校野球において、連合チームで挑まなければいけないほどに部員数が少ないチームがあるのが現状だ。
だからと言って、野球熱が完全に下火になっているというわけではない。たとえば、金ケ崎リトルシニアには、純粋に「野球がうまくなりたい」「好きな野球を一生懸命にやりたい」「中学時代の経験を次のステージにつなげたい」と思う意識の高い多くの中学生たちが集まり、保護者も含めてその熱は高い。
岩手県全体として考えても、メジャーで活躍する菊池雄星選手や大谷翔平選手(ともに花巻東高校出身)、プロ野球で躍動する佐々木朗希選手(大船渡高校出身)といった地元が生んだスターたち、規格外とも言えるポテンシャルを持つ彼らの存在が、野球熱の高まりにつながっていると言えるだろう。子供たちの憧れであり、大きな指針となっている逸材たち――。
なぜ、岩手から多くの逸材が、しかも世界クラスの野球選手が生まれるのか。
その問いに対して、明確な答えの根拠は見当たらない。選手それぞれの先天的な能力や身体的なアドバンテージは、親のDNAに起因する部分が大きいだろうし、「岩手」というキーワードだけで、逸材誕生を単純に語ることはできないだろう。ただ、大谷監督は「ひょっとしたら……」と前置きしながら、「岩手と逸材」の関連についてこう分析してくれるのだ。
先発は長くても「5回まで」…将来を見据えて負担も考慮
「たとえば、技術的にも肉体的にも、中学時代にすでに『できあがっている』ような選手が多い関東や関西といった都会の選手たちと比べれば、岩手の子供たちは、基本練習を繰り返す中で、どこかのんびりと野球をやっているところがあるかもしれません。都会の子と田舎の子では、その辺のバランスが違うんじゃないかなと思うんです。ひいては、それが将来的な大きな成長と関係しているのかもしれませんね」
「成長期でもある中学時代から、練習をガツガツとやってうまくなっていくのがいいのか、それとも、ある程度の休みを与えながらやるのがいいのか。正直、どちらがいいのかと考えるところはありますが、いずれにせよ、時間の使い方という部分は大事になってくると思います」
2014年4月のチーム創設当初は、周囲の強豪チームに追いつかなければいけないという思いもあって、練習量を追い求めていた時期があったという。ただ、成長痛や怪我に悩まされる選手を目の当たりにして、金ケ崎リトルシニアの練習内容は見直されていった。現在は、平日の全体練習は水曜日だけ。練習時間は夕方から2時間弱だ。体のケアという点で言えば、7イニング制の大会で、先発投手は長くても「5回までと決めています」と大谷監督は言う。
「完投はさせません。実際に大会での球数制限もある中で『5回60球を目標にしよう』と言っています。また、捕手と投手の併用はしません。体への負担を考えて、チームとしてそういう方針でやっています」
将来を見据える野球が、金ケ崎リトルシニアには浸透している。その取り組みもまた、「岩手から逸材」の流れを作り上げる一つの姿なのかもしれない。
(佐々木亨 / Toru Sasaki)