高校野球は“敷居が高い”のか 中学から半数減…公立古豪の危機感「雰囲気知って」

埼玉・上尾高で開催された市内中学生対象の野球教室の様子【写真:高橋幸司】
埼玉・上尾高で開催された市内中学生対象の野球教室の様子【写真:高橋幸司】

高校進学後も野球を…埼玉・上尾高ら市内4校が中学生対象の野球教室

 野球人口の減少に歯止めをかける試みが、埼玉県上尾市で行われた。8日、同市内の高校4校(上尾高、秀明英光高、上尾南高、上尾橘高)の野球部が共同で、市内の中学野球部員約150人を招き野球教室を開いた。毎年恒例で、今回で7回目となった。

 会場は、過去に春3回、夏4回の甲子園出場を誇る古豪・上尾高のグラウンド。4校の指導者らが顔をそろえ、上尾高の1、2年生野球部員54人が講師役、サポート役を務めた。上尾高OBで埼玉県高野連専務理事を務める神谷進さんは、「いまや、県内の中学野球部員で高校進学後も野球を続けるのは半数くらい。われわれは強い危機感を抱いています。こういう企画をきっかけに増えてくれればと考えています」と説明する。

 上尾高・片野飛鳥野球部長も「最近の中学生は、高校野球に対し『敷居が高い』と感じている子が多い。この野球教室で高校野球の雰囲気を知ってもらって、1人でも2人でもいい、『これなら、やってみようかな』と思ってほしいです」とうなずく。さらに上尾高は独自に毎年2月、市内の小学生向け野球教室も開催しており、「小・中学時代に続けて参加して、実際に上尾高に入って来た子もいます」と目を細める。

 上尾高は1975年の夏、準々決勝で当時のスター選手・原辰徳氏(前巨人監督)を擁する神奈川・東海大相模高を破り、過去最高のベスト4入りを果たすなど、高校野球のオールドファンにとって非常に懐かしい校名だ。しかし近年は、浦和学院高、花咲徳栄高、春日部共栄高など強豪私立に有望選手が集中する傾向が強く、昨年まで39年間も甲子園から遠ざかっている。

 上尾橘高に関しては、現在野球部員1人。昨秋の県大会には児玉高、熊谷農高、深谷高、桶川西高と5校連合チームを組んで出場したが、部員数増がのっぴきならない課題となっている。中学生に高校野球の魅力を強くアピールしたいところだ。

高校生がサポートしながらゲーム形式のノックなどを実施【写真:高橋幸司】
高校生がサポートしながらゲーム形式のノックなどを実施【写真:高橋幸司】

“教える側”の高校生にもメリット「グンと伸びる子いる」

 野球教室は参加者を中1と中2に分け、2年生は高校生とのキャッチボールをはじめ、ゲーム形式のノック、ブルペンでの投球練習、フリー打撃などに取り組み、1年生は技術練習の他、教室に移動してクイズ形式のルール講習なども受けた。

 片野部長は「もちろん中学生のためにやっていることですが、実は教える側の高校生にもメリットがあると感じています。この行事の“裏の意義”と言えるかもしれません」とも指摘する。

 上尾高ナインは“指導者目線”で中学生と向かい合う経験を通して、監督や野球部長らと同様の立場になって、普段の自分たちの技術や立ち居振る舞いを客観的に見つめ直すことができる。片野部長は「たとえば、こちらが一生懸命教えているのに、そっぽを向いている中学生がいたら腹が立つだろう。しかし、ひょっとするとそれは、普段の君たちの姿ではないのか、と問いかけています」と語る。

 上尾高の野球部員には「この野球教室を境に冬の練習を頑張り、グンと伸びる子が毎年数多くいます。また、『中学生を指導して面白かったから』と、将来教員や少年野球の指導者になりたいと言い出す子もいます」(片野部長)という。

 こうした試みが全国に広がって、中学生の高校野球に対する興味をそそり、しかも迎える側の高校生にも好影響を与えるとなれば、野球人口の減少は自ずと底を打つはずだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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