強豪私学が恐れる“公立の名将” 元Gドラ1も急成長…利点生かす「縛られない」育成論

須磨友が丘高監督で県高野連指導者委員長も務める徳山範夫氏(左)【写真:橋本健吾】
須磨友が丘高監督で県高野連指導者委員長も務める徳山範夫氏(左)【写真:橋本健吾】

兵庫県・須磨友が丘高校の徳山範夫監督が説く“公立のメリット”

 全国屈指の高校野球の激戦区・兵庫県では、強豪私学の“壁”は想像以上に高い。そんな中でも甲子園出場こそないが、着実に力をつける学校も存在する。現在、須磨友が丘高校で指揮を執る徳山範夫監督は、これまで携わったチームで、数多くの番狂わせを演じてきた指導者の1人。球児たちが約2年半の高校野球生活で成長するために必要なポイントを聞いた。

 徳山監督は神港学園で10年間コーチを務めると、その後は公立高校の夢野台、姫路東、北須磨、現在は須磨友が丘の監督として手腕を発揮している。北須磨時代には元巨人・桜井俊貴投手(現ミキハウス)を指導し、2009年秋季県大会ベスト8。須磨友が丘に移り、2021年にも秋季県大会で同校初の8強入りに導いた。

 これまで私立、公立の両方で指導経験を持つだけに、選手集めや育成の難しさは熟知している。「ほとんどの公立は私学のようにスポーツ推薦はありません。勧誘の仕方も『できたら受験してください』しか方法はないんですよ(笑)。学力も必要になる学校もありますし、選手の技量がどうこうは言ってられない」。中学硬式などで名のある選手を獲得するのは、ほぼ不可能に近いという。

 1年生が入るスタートの段階では「軟式出身者が多く、能力・技量は大きな差がある」というが、公立だからこそ生まれるメリットもある。部員が少ないからこそ、4月の入部から7月の夏の県大会までは実戦期間に充てることも可能。競争が激しい強豪校に比べて経験値を積めることで、実力差を少しずつ埋めていく。最先端のトレーニングも必要だが、試合経験と基礎を一番大切にしている。

北須磨高時代の徳山監督の教え子・桜井俊貴(巨人時代、現ミキハウス)【写真:荒川祐史】
北須磨高時代の徳山監督の教え子・桜井俊貴(巨人時代、現ミキハウス)【写真:荒川祐史】

高校3年間で最速120キロ→143キロに…努力できるかが「境目」

「私学に比べると能力は劣る。それでもペッパー、キャッチボールなどの基礎をしっかりとやる。伸びる子は伸びる。潜在能力があっても1年生の段階では下手な子もいる。ただ、遅れてるだけでね。硬式でも早く出来上がってるけど、伸びない子もいる。軟式出身者=能力が低いという考えはない」

 巨人に入団した教え子の桜井も軟式出身者。入部当初は直球の最速は120キロほどだったが、入念な基礎トレーニングを行い、体の成長と共に最終的には最速143キロをマークするほどに成長した。「彼は高校、大学(立命大)で努力を怠らなかった。あのレベルの選手ならプロに行けてないケースもたくさんある。やはりそこが境目」と指摘する。

 その他にも公立のメリットには「伝統に縛られない」と口にする。先人たちが築き上げた伝統を引き継ぐことも大切だが「こんなことやったらダメ、とかOB会のしがらみはない。指導者の考えで好きなようにできる。選手たちのプレッシャーもない」。その分、指導者の技量が問われ、結果にも結びついてくる。

 昨秋は公立の須磨翔風高校が県大会で準優勝し、近畿大会で8強入り。今春の選抜出場こそ逃したが「我々、公立の立場からすると非常に意味があり、勇気づけられた。私学の壁は高いですが、中学球児にも多くの夢を与えたと思います」と拍手を送る。技術はもちろんのこと、社会に出ても通用する球児を育てるため、公立の名将はこれからも指導を続けていく。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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