部員ギリギリ…高校球児も痛感する野球人口減 “独自調査”で見えた打開の「きっかけ」

神奈川県立多摩高校野球部が実施した野球教室の様子【写真:伊藤賢汰】
神奈川県立多摩高校野球部が実施した野球教室の様子【写真:伊藤賢汰】

神奈川県立多摩高校が“珍しい”野球教室…アイデア満載、小学生も好評

 野球人口減少は他人事ではない。神奈川県有数の進学校、県立多摩高校の野球部が1月28日、授業の一環として小学校低学年向けの野球教室を開催した。深刻な競技人口減少に歯止めをかけるため、高校球児にできることはないのか。独自の調査から導き出した答えが、「野球教室」だった。

 競技普及を目的としたプロ野球選手や元プロらによるイベントは一般的になっている。ただ、高校の野球部が主体となった野球教室は全国的にも珍しい。しかも、多摩高校野球部は毎月2~3コマ設けられている「総合的な探究の時間」の授業として取り組んだ。

 きっかけは、深刻な競技人口減少を肌で感じたためだった。昨秋に新チームがスタートした際、同校野球部の部員は選手9人、マネジャー1人の計10人だった。試合をするにはギリギリの人数だ。

 神奈川県内全体に目を向けると、部員不足の高校による連合チームが増えていると気付いた。松崎航太主将は「野球をする子どもが減っていることは情報として知っていましたが、実感が伴ったので行動に移さないといけない危機感が芽生えました」と話す。

 人口減少で子どもの数が減っている以上、野球人口が少なくなるのは避けられない。だが、野球の競技人口減少は人口減少以上のスピードで進んでいる。なぜ、野球をする子どもが減っているのか。選手たちは要因を知り、対策を講じるためにアンケートを実施した。

 未就学児から高校生までの子どもを持つ保護者を対象に調査した結果、子どもが少年野球を始める際の懸案事項には「保護者の当番」「長時間練習」「指導者の問題」が上位を占めた。そして、実際に野球を始めた年代は小学校低学年が最も多く、きっかけは「友達に誘われたこと」が最大の理由だった。

 高校球児が少年野球チームの方針を変えることは現実的ではない。そこで部員たちは、未就学児や小学校低学年に野球の楽しさを伝える活動が、競技人口増加につながると考えた。

参加者から「もっとやりたい」などの声が多数上がった【写真:伊藤賢汰】
参加者から「もっとやりたい」などの声が多数上がった【写真:伊藤賢汰】

飽きさせないメニューの工夫…参加者から「楽しかった」

 今回開催した野球教室の対象は、地元チームに所属する小学1~3年生。部員たちは「野球の楽しさを伝える」「飽きさせない」をテーマに掲げた。思い付いたのがポイントラリー。投球、打撃、守備とそれぞれのブースで、内容によって点数を獲得できる仕組みだ。

 例えば、ティー台を使った打撃ではラインより上に打球が飛んだら2点。投球ではストラックアウトのように的に番号を振り、当たった枚数が得点、ビンゴを達成したらボーナスポイントが付くルールにした。ポイントの合計が高かった上位3人には賞状を手渡した。その他にも、鬼ごっこでウオーミングアップをしたり、野球のルールに似た遊び「BTボール」やベースランニングで競争したりした。

 イベント後、子どもたちからは「楽しかった~」「もっと、やりたい」といった声が上がった。松崎主将は「タイムスケジュール通りに進められない難しさや、野球の指導でうまく言語化できない課題はありましたが、楽しさは伝えられました。こうして野球の楽しさを知った子どもたちが、友達を野球に誘うことで、競技人口の増加につなげられたらと思っています」と充実感をにじませた。

 併せて、保護者を対象にしたアンケートも実施している。競技人口を増やすためにはどんな取り組みが必要なのか、野球教室以外にどのような活動が効果的なのかを分析していくという。松崎主将とクラスメートで、野球教室の中心を担った冨永直暉選手は「アンケートの結果を次回以降のイベントにつなげていきたいと思っています。子どもたちと年齢が近い高校生だからできる取り組みもあります」と語った。

 野球の入口となる学童野球が衰退すれば、その先にある高校野球やプロ野球にも影響が及ぶ。競技人口減少は高校球児も当事者であり、現状を変える力やアイデアも持っている。

(間淳 / Jun Aida)

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