慢性的痛みの原因が「まさか」 プロも目から鱗…“控え経験”で磨いた驚きの観察眼

鴻江寿治氏を中心に集合写真。左の濃紺シャツは「うで体」、右のグレーは「あし体」の選手たち【写真:伊藤賢汰】
鴻江寿治氏を中心に集合写真。左の濃紺シャツは「うで体」、右のグレーは「あし体」の選手たち【写真:伊藤賢汰】

鴻江キャンプ」を主宰する鴻江寿治氏が「痛みはチャンス」という理由

 プロ野球界は現在、春季キャンプ真っ盛りだが、その準備期間となる1月に注目の合宿が福岡県八女市で行われた。アスリートコンサルタント・鴻江寿治氏の「鴻江スポーツアカデミー」が主宰する合同自主トレ「鴻江キャンプ」。今年も1月15~19日の5日間でプロ野球からは12人、ソフトボールを含む他競技を含めると計24人のアスリートが参加。中には慢性的な故障を抱えている選手もいたが、「痛みを感じるのはチャンス」と鴻江氏が語る、その理由とは?

 最多勝2度獲得の元中日エース・吉見一起氏や、育成選手からメジャーリーガーとなった現メッツの千賀滉大投手、女子ソフトボール界の“レジェンド”上野由岐子投手らが指導を受けて飛躍を遂げてきたこのキャンプ。指導の根幹を成すのが、鴻江氏が提唱する「鴻江理論」だ。人の体を、猫背型の「うで体」と反り腰型の「あし体」の2タイプにわけ、それぞれの特徴に応じた細かい指導を行っていく。

 12人のプロ野球選手のうち、初参加は7人。細かい目的は違えども、共通するのは「自分の体をより深く理解したい」という思いだ。

 ヤクルトの2020年ドラフト1位右腕、木澤尚文投手(「うで体」タイプ)は「セットの位置やグラブの位置など、細かいところまでしつこいくらいに教わっています。“ハッ”とさせられるようなこともあるし、自分の体に合うやり方が見つかれば、よりロスがなく投げられ、球速や精度にもつながってくると思います」と、3年目の活躍に向けて毎日の学びに新鮮な様子。

 不退転の決意で臨んでいたのは、プロ9年目を迎えるロッテ・柿沼友哉捕手だ。「ゼロから作り上げる気持ちで参加しました。構えからタイミングの取り方から、これまでとは全く違うことをやっています」。腕から始動するとスムーズな動きにつながる「うで体」タイプとして、同じチームの岡大海外野手に似たバットを寝かせた打撃フォームに挑戦。練習では快打を連発し、「地面と平行に構えることでリラックスした始動から打てている」とうなずいた。

 これまで5、6年間、慢性的な両膝の痛みに悩まされてきたそうだが、「鴻江先生に『今までの打ち方が影響しているよ』と言われ、まさかという感じでした。打撃が影響しているとは思いませんでした」。新フォームは両膝への負担なく打てるのも大きいという。練習中、鴻江氏が柿沼にかけていた、「痛みを感じるというのはチャンス」という言葉が印象的だった。

ロッテ・柿沼に打撃指導をする鴻江寿治氏【写真:伊藤賢汰】
ロッテ・柿沼に打撃指導をする鴻江寿治氏【写真:伊藤賢汰】

理論の根源は故障予防「選手に怪我をさせない・改善させたい」

 選手に怪我をさせない。怪我をしたとしても改善に導きたい。これが、「鴻江理論」の根幹にあるものだ。それは、自身の苦心の経験がある。

 鴻江氏もかつては野球選手として上を目指していた1人だが、学生時代に肩を故障。手術を行ったものの治らず、そこからは、自力でさまざまな治療法やトレーニング方法と向き合い、再び投げられる状態にまで戻したという。

「治ることに気づいてからは、取り組み方が一変しました。いろんな人やものを観察するようにしていきました。私のような“控え選手”は、常に前に誰かがいて、その背中を見続けている。だから逆に、客観的に物事が見られるようになったんです」

 人の動作、体の歪みなど、長年の観察の積み重ねで生まれたのが、「うで体」「あし体」の2タイプに分ける理論。「うで体」の選手が「あし体」の動きをすれば、痛みが発し故障につながる。逆もまた然り。

 しかし、自分に適した動きができれば痛みを感じることがないし、練習もたくさん積めてパフォーマンスアップにつながる。だから、痛みは「生まれ持った“本能”とは違うことをしていると体が教えてくれる、自分を大きく変えるチャンスになる」というのだ。

 柿沼が今キャンプに参加したきっかけは、鴻江氏の教えを受けたことのある美馬学投手から、「鴻江さんが『あの選手は打てるようになる、目星がある』と言っていたよ」と聞かされたからだという。「僕に対して、そんなことを言ってくれる人はいなかった。話を聞いてみたいと思いました」。驚きをもたらす鴻江氏の観察眼が、今キャンプを経験した選手たちにどれだけの飛躍をもたらすのか、注目したい。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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