公立進学校を刺激する「イチロー効果」 甘さも痛感…超一流から得た“無駄なき姿勢”
2022年末にイチロー氏から直接指導…静岡・富士高校ナインに与えた好影響
自分たちが目指す方向性は間違っていないと、自信が確信に変わった。静岡県富士市の県立富士高校で17日、地元の小学生を対象にした野球教室が開かれた。富士高校野球部は文武両道と野球を通じた地域貢献活動で知られており、おととし12月には元メジャーリーガーのイチロー氏から直接指導を受けている。イチロー氏の訪問を受け、野球部員は高校野球の意義や自分たちが果たすべき役割を再認識した。
富士高校野球部は2022年4月に稲木恵介監督が赴任後、地域の園児や小学生と野球を通じた交流を深めている。今回は地元の岩松北小学校から依頼を受け、野球教室を開催。静岡県東部屈指の進学校とあって、野球をする前に50分間、学習の時間を設けた。
稲木監督は前任の三島南高校で2014年に野球を通じた地域振興を始めた。野球教室の開催は富士高校で10回に上り、三島南時代を合わせると46回目となった。選手たちは野球の競技人口に歯止めをかけようとする指揮官の考えに賛同し、今は野球教室の内容を自分たちで考えている。
こうした取り組みを続けたことで、おととし12月には予想外の“ご褒美”を手にした。イチロー氏が直接指導に訪れたのだ。現役を引退していても、その存在感は圧倒的だった。夢のような感覚になりながらも、選手たちはイチロー氏のプレーや言葉を一瞬たりとも逃さないように集中した。末高慎之介主将は、1つ1つのプレーにかける気持ちや声の迫力に驚いたという。
「イチローさんはティー打撃でスイングする時もノックでボールを呼ぶ時も、ものすごい声を出していました。超一流の選手でも大きな声を出しているのに、自分たちはプレー以前の取り組み方に甘さがあると感じました。イチローさんから限られた時間を無駄にしない姿勢を学びましたし、野球でも野球以外の部分でも、周りを引っ張るリーダーシップを意識するようになりました」
「楽しむ姿勢」や「周りを引っ張るリーダーシップ」…イチロー氏を手本に
副主将で生徒会長も務める藤田理一選手は、誰よりも野球を楽しむイチロー氏の姿が印象に残ったという。ノックを受ける時は待ちきれないように打球を呼び、ブルペンで投手を見ている時は「今の良いボール!」と自分のことのように喜んでいた。
「『野球を楽しむ』というところは技術に関係なく真似できるところです。イチローさんが楽しそうにプレーする姿はグラウンドの雰囲気を変えました。でも、ただ楽しむだけではなく、1つ1つの練習に明確な意図がありました」
藤田選手は、イチロー氏が披露した正面からのティー打撃を取り入れている。腹圧を使って声を出しながらスイングするイチロー氏を手本にして、スイングの質を高めている。そして、イチロー氏が富士高校野球部の掲げる文武両道と野球振興に関心を抱いて訪問を希望したことで、自分たちの目指す方向性は正しいと自信を深めた。
「自分たちは強豪私学のように練習時間が長いわけではありません。野球も勉強も時間が限られる中で、課題を改善するために何をすべきか考え、時間を有効に使う意識を持って行動しています。勝利や技術の向上だけではなく、野球を通してどんな人間になるのかが大事だと思っています。野球振興活動も地域への貢献や野球の将来を考えた上で重要な時間です」
末高主将も思いは同じ。野球も勉強も野球の普及活動も全力で取り組めば、自分のためにも周りのためにもなると考えている。
「学校で掲げている地域のリーダーになる意識は、全ての部員が持っています。野球で勝利を目指すのはもちろんですが、野球振興でも地域の先頭に立ちたいです。イチローさんの訪問を受けて、その気持ちが一層強くなりました」
イチロー氏が富士高校ナインに影響を与えたように、選手たちは野球と勉強を両立する姿や野球を通じた活動で地域の模範となる。
(間淳 / Jun Aida)
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