“野球人口減”阻止へ、高校部活が開く「突破口」 練習影響懸念も…球速も上がる相乗効果
スポーツ人口拡大と地域活性化に寄与…大垣北高校の「Jrベースボールラボ」
少子化、子どもの体力低下、教員の働き方改革など、学校の「部活動」を取り巻く環境が大きく変化する中、高校生が主体となって小学生対象の野球教室を開催し、スポーツ人口減少食い止めや地域活性化に貢献する試みが行われている。岐阜県立大垣北高校野球部による「大垣北Jr(ジュニア)ベースボールラボ」だ。オフだけでなくシーズン中も継続的に実施しているのが特徴で、近藤健二監督は「選手たちの成長にもつながるし、こうした取り組みが広がれば」と効果を語る。
大垣北は、来年創立130周年を迎える県内屈指の進学校で、野球部も今年125周年の節目を刻んだ“古豪”。1951年夏の甲子園で8強入りした実績があり、OBには近鉄の内野手として通算321試合に出場した木村勝男氏がいる。
同ラボは、球界を取り巻く現状を授業で学んだ選手たちが、「高校の施設を活用し、小学生にスポーツに触れる楽しさを感じてもらいたい」と2023年1月に発足させた。地域の小学3~6年生(登録約130人)を対象に、毎月1、2回の教室を実施。ベースボール5、打撃練習、キャッチボール、ドッジボールなどでの基礎体力・動作づくり、さらに休日や長期休みに実施する際には学習の時間も設ける。この3月、スポーツ人口拡大に貢献する取り組みを表彰するスポーツ庁の「Sport in Lifeアワード」で団体部門優秀賞に選出された。
始めてから1年余り、参加する小学生や保護者からアンケートをとると、野球や運動、勉強へのモチベーションは着実に向上しているそうだ。と同時に、この取り組みは高校生にも相乗効果があると近藤監督は語る。
「小学生に教えることで、選手たちの言葉の引き出しが増えますし、視野が広がり、思いやりも生まれます。アウトプットするためにはインプットも必要ですから、普段の練習でも『きちんと吸収しよう』と取り組み方が変わってきます」
当初は、ラボの準備・実施に時間を取られ、技術低下につながらないか不安もあったそうだが、「今では全く逆で、やった方が効果があると感じています。普段の練習をより大切にするようになるし、1年生で140キロを超える投手が出てきたり、打撃面でもポジティブなデータが現れたりと、パフォーマンス向上にもつながっています」と手応えを口にする。
専門用語使わず平易な言葉で…学習の時間は集中する空間を作り“学び方を学ぶ”
実際に選手たちは、どのような意識で小学生たちに教えているのだろうか。
企画を主導する無藤蓮生(むとう・れん)主将(2年)は、「普段、監督・コーチから教わっていることを、きちんと咀嚼し理解した上で、子どもたちにはできるだけ簡単な言葉で伝えるようにしています。チームとしても共通理解の徹底が必要になります」と語る。
副主将の田中蒼士さん(2年)も、使う言葉に意識を向ける。「自分たちは肩甲骨や股関節などの専門用語を使いますが、わかりやすい言葉で説明することを心がけ、なるべく目線をそろえて話したり、一緒に体を動かして伝えたりすることも意識しています」。同じく副主将の高井優希さん(2年)も、「大袈裟にリアクションしてみたり、自分の感情を出すことで距離が縮まると感じます」と言う。
学習の時間については、「野球を教えるよりも難しいかもしれません(笑)」と無藤さん。野球には前向きな子どもたちも、勉強に関してはそうとは限らないからだ。その中で「高校生も一緒に自分たちの勉強をして、集中する空間を作ることで、“学び方を学ぶ”ことを伝えられるように意識しています」と工夫を凝らす。
相乗効果は、皆が実感している。「小学生は正直ですので、僕らの言葉に対して『反応してくれた』『今のはよくなかった』ということがわかりやすい。将来の仕事でのコミュニケーションにも活かせると思います」と田中さん。高井さんも、「準備や片付けも含め、自分本位にならず、周りをよく見ることにつながったと感じます」と語る。昨年12月には日本野球学会でラボの成果を発表する機会も設けられ、「人に伝える経験ができて、広い年齢層の方と関われて視野が広がりました」と無藤主将は口にする。
選手たちをサポートしてきた近藤監督は、こう語る。
「子どもの数の減少や、教員の働き方改革、公園で球技NGなどの環境の変化もあります。今までと同じ感覚でやっていては、制限されていく一方になってしまう。新しいことに取り組んでいくことで、突破口が見えてくるのではないでしょうか」
スポーツや野球を好きになる子どもたちが増え、地域が盛り上がり、しかも、選手たちの成長へのシナジーもあるのであれば、これほどメリットの大きい取り組みはない。新しい部活動の形が広まり、全国各地で“突破口”が生まれてくることを期待したい。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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