激戦区の頂点へ…低反発バットは「チャンス」 成長を“見える化”、新興私学が挑む革命

スピードとパワーを追求し体力強化に励む立花学園の選手たち【写真:伊藤賢汰】
スピードとパワーを追求し体力強化に励む立花学園の選手たち【写真:伊藤賢汰】

2022年夏の神奈川大会4強…立花学園は「選手の主体性」を育む指導

 高校野球の激戦区・神奈川県で近年、着実に上位候補として名乗りをあげてきているのが、県西部の松田町にある私立・立花学園高校だ。2022年夏の選手権では県4強、2023年春には県8強に進出。この4月で就任8年目を迎える志賀正啓監督は、選手の主体性を重んじた指導と、データを活用した成長の可視化で“強豪越え”を目指している。注目校の指揮官に、指導方針を聞いた。

 東京・明大中野八王子高、明大と投手としてプレーした志賀監督は、日体荏原高(現日体大荏原高)で野球部長などを務めた後、2017年4月に立花学園高監督に就任。現在は120人を超える選手を率いている。

 野球部のホームページには「革命」の2文字を掲げる。「監督の“色”を出すのではない。生徒たちの“色”を出させてあげたい」と、志賀監督は新しい高校野球の形を追求している。前提としてあるのが“主体性”。普段の練習内容は、監督が大枠を作るものの、細かいメニューは主将・副主将が中心となり、課題と向き合いながら選手たちが決定する。

「選手主体」の土壌は志賀監督が就任時には既にあったというが、その思いをさらに深めたのには、就任1年目夏の県大会の出来事がきっかけだった。

「3点ビハインドの1死一、三塁、勝つか負けるかの大事な場面で、一塁走者が盗塁のサインを見るタイミングを失ったのです。無理にリスクを負う場面ではなかったかもしれませんが、一塁手はベースから離れていたし、二塁に進めばゲッツーもなくなる。そうした場面でも冷静に状況を客観視でき、ロジカルに動ける選手を育てていきたいと考えました」

 主体性を伸ばす上で取り入れたのが、データ活用だ。今では利用するチームも多い投球・打球分析機器「ラプソード」も、日本にまだ数台しかない早い段階で導入。選手たち自身が数値と向き合い、セルフコーチングできるようにしたのだ。「当時はまだ得体が知れなくて、選手たちと模索しながら使っていました」と笑うものの、次第に日々の調子や感覚とデータとを擦り合わせ、掘り下げていく選手も出てくるようになった。

立花学園の志賀正啓監督【写真:伊藤賢汰】
立花学園の志賀正啓監督【写真:伊藤賢汰】

「セルフコーチングの力は、野球をやめてからも生きてくる」

 立花学園には、横浜や東海大相模などのように体格的に恵まれた選手が入ってくるわけではない。よって個々の成長の“見える化”がもたらす効果は、強豪の壁を越えるための鍵にもなる。高校野球ではこの春から低反発バットを採用。選抜でも早速、打球の飛距離低下などの影響が表れたが、志賀監督は新バット導入を「チャンス」と捉えている。

「昨夏以降も仙台育英(宮城)さん、東海大甲府(山梨)さん、横浜さんなどと対戦してきましたが、ウチの選手は体が小さくて軽いため、パワーで振り切られてしまい、そうなると戦術も戦略もなくなります。低反発バットによって、そこがある程度対等になれば、お互いにやる野球も変わってくると考えています」

 野球はマウンドと本塁との間、塁間などの距離が決まったスポーツ。つまり、速さを追求していけば、相手が判断する時間も短くすることができ、「そこを突き詰めていけば、必然的に筋力は必要になる」と監督。ウエートトレーニングはもちろん、体重測定を毎日行うなど、数字から客観的に判断できる仕組みを整えてきた。

 大所帯をまとめる主将の小長谷琉偉(こながや・るい)内野手(3年)は、次のように語る。「体の大きい他校の選手に、負けないくらいのフィジカルを作ることを目指してきました。スクワットを何キロ上げなければ試合に出られない、というようなノルマを自分たちで設定し取り組んできました」。

 目標数値はあるが、そこに到達するまでの手段には、個々の「主体的に考える力」が求められる。それは他の投打の練習についても然りだ。

「スクワットにしても、土台の部分は教えてもらうものの、そこからはどういうやり方が自分に効果的かを考えながら行います。中学までは指導者から言われたことをやる感じでしたが、立花学園では、自分で試行錯誤をしていかなければ上達しません。考える習慣が身に付き、わからないことを周囲に聞くコミュニケーション能力も必要になります」(小長谷主将)

「データ活用で一番大事なのは、人と比べるのではなく、『昨日の自分を超える』こと。セルフコーチングの力は、野球をやめてからも生きてくる」と志賀監督。そして、「最終的には、自分たちで行動できる人間、自立した人間がどれだけ多いかが、勝ちに直結すると考えています」とも語る。客観的判断と考える力を武器に、激戦区No.1チームを目指す。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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