「人生初」のワインドアップ 吉田輝星が新境地”開拓”のワケ…止まらぬ向上心「理想の軸」

オリックス・吉田輝星【写真:小池義弘】
オリックス・吉田輝星【写真:小池義弘】

オリックス・吉田輝星、ワインドアップは「自分の中でも『初めて』ですね」

 どうしても尋ねたい質問があった。「1つだけ……」。少し頭を下げながら、右手の人差し指をスッと上げる。それを見たオリックス・吉田輝星投手は笑いながら「1つだけですよ!」と歩を止めた。

「ワインドアップ、どうして挑戦を始めたのか、教えてもらえない……?」

 瞬時にパッと目が合った。少し頭を整理してから、吉田は話を始めた。「1本の線になるイメージです。ワインドアップだと、軸を保ちながら(投げる)方向や軌道が決めやすい。まだ始めたばかりなので少しずつですけどね」。そう言い切ると顔を綻ばせ、話を続けた。

「投げる時に『勢いをつけたい』という感じですね。(ワインドアップは)バランスも取れるし、勢いもつきやすい。体の使い方も、動きの流れで取ることができるんです」

 大きく振りかぶって投げる吉田を見たことがなかった。「そうですね。練習とかでは何回か挑戦したことはありますけど……。自分の中でも『初めて』ですね。本格的にワインドアップで投げるのは」。輝く目で深く頷き、言葉を紡ぐ。

「ワインドアップ……かっこいいですよね。最初はその発想でした。(NHKの)球辞苑、過去放送回を見たんです。いろんなピッチャーの映像を見た時に『かっこいいなぁ』って思ったのが最初の感想でした。でも、よく考えた時、僕の作りたい『理想の軸』ができそうな投げ方だったんです。バランスがきっちり取れそうだなと」

新天地で出会った投球理論に重ね合わせた「答え」

 画面に熱中しながら、故郷・秋田の“先輩”から送られた言葉が頭をよぎった。「山田久志さん、ワインドアップじゃないですか? 昔、お話させてもらった中で『ワインドアップ、華があるよねぇ』って言われていたのを思い出したんです」。試してみるのも、悪くはなかった。

「練習で投げてみたら……。遠投で凄く良いボールが投げられたんです。(今年は)うまくバランスが取れるまではセットポジションで投げていました。今まではノーワインドアップだったんですけどね」

 両手を高く上げ、スムーズな体重移動を意識して投じる。「縦と横の軸を意識しています。手と足の位置を確認してから頭を『置く』イメージです。(今年の)キャンプでフォームを変えている時から『ワインドアップもありだな』と思っていました。体の使い方の感覚的に、良かったので」。新天地で出会った投球理論に、自身の考えを重ね合わせたのが「ワインドアップ」だった。

「1つだけ」の質問は8分間になった。それだけ、熱中している証だった。吉田は、帰路に着く直前のクエスチョンにも顔色を変えることはなかった。途中には「もちろん、クイックも好きですよ」と笑うシーンもあった。「試してみないと、わからないことばかりですから。良いと思えるものを発見できれば、です」。運転席でシートベルトを装着する表情に、曇りはなかった。

○真柴健(ましば・けん)1994年8月、大阪府生まれ。京都産業大学卒業後の2017年に日刊スポーツ新聞社へ入社。3年間の阪神担当を経て、2020年からオリックス担当。オリックス勝利の瞬間に「おりほーツイート」するのが、ちまたで話題に。担当3年間で最下位、リーグ優勝、悲願の日本一を見届け、新聞記者を卒業。2023年からFull-Count編集部へ。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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