吉田大輝が聖地で号泣「ふさわしくない」 脳裏に兄・輝星の雄姿…誓った“リベンジ”
7回までに154球、5失点降板「ふがいないピッチング」
6年ぶりに“金農の吉田”が甲子園に戻ってきた。第106回全国高校野球選手権大会は9日、甲子園球場で第3日が行われ、6年ぶりの出場の金足農(秋田)が西日本短大付(福岡)に4-6で敗れ初戦で涙を飲んだ。6年前にエースとして準優勝に導いた吉田輝星投手(オリックス)の弟・大輝投手(2年)が先発したが、7回154球5失点で降板した。
2年生ながら金足農のエースナンバー「1」を背負い、憧れ続けてきた甲子園のマウンドに立った吉田だが、実力を発揮することはできなかった。初回、1番打者に左前打され、2番打者への初球のストレートがワンバウンドの暴投となり、一塁走者に一気に三塁を陥れられた。動揺を隠せない中、左前適時打を許し、あっさり先制を許す。3番打者への2球目のチェンジアップも暴投となり、1イニング2暴投を記録してしまった。
5回には3安打3四球に暴投も絡み、打者一巡で一挙4点を奪われた。8回からは先輩の花田晴空投手(3年)にマウンドを譲るしかなかった。2018年の“金農旋風”の再現とまではいかず、中泉一豊監督は「吉田は普段と違い、予想以上にボールが先行していました。バッテリーミスも痛かった。相手の打力を意識したということもあったでしょうし、初めて(の甲子園)という緊張もあったと思います」と分析。「(投手交代は)吉田の球数が160球に向かっていたので、彼の将来や今秋へ向けて、無理をさせたくない気持ちもありました」と説明した。吉田自身は試合後、「自分のふがいないピッチングで、先輩の夏を終わらせてしまった」と涙で声を震わせた。
兄の輝星は2018年、金足農のエースとして秋田県大会から甲子園大会準決勝まで、驚異の10試合連続完投勝利を挙げた。その疲れが出たのか、決勝の大阪桐蔭戦は5回12失点で降板し、準優勝に終わった。甲子園大会6試合の輝星の投球数は、計881球に上った。そんな兄の姿は、当時小5だった大輝の脳裏に焼き付いている。
中泉監督「試合をつくれる投手が少なくとも2人必要」
だからこそ吉田は何より、甲子園のマウンドを試合終了まで全うできなかった自分を許せない。「自分はまだ甲子園にふさわしくない。これからはもう絶対、誰もマウンドには立たせない、譲らない気持ちでやっていきたいです。来年は1人で投げ切って、チームを勝たせたいと思います」と語気を強めた。
ただ、兄が“金農旋風”をけん引した後、高校野球には2020年から1週間500球以内の球数制限が設けられた。投球過多に疑問を呈する声が増え、怪我防止の意識が高まり、継投を前提に戦うチームが増えた。暑さ対策にも敏感で、昨夏から5回終了時のクーリングタイム、今大会では「朝夕2部制」が試験的に導入されている。価値観が大きく変わりつつある。
中泉監督も、「兄のように1人で投げ切りたい」という吉田の気持ちに理解を示すが、基本的には「故障してしまったら何にもならない。そこは我慢し、我慢させないといけないと思います」と考えている。吉田中心の新チーム結成へ向けて、「試合をつくれる投手が少なくとも2人は必要。できれば左腕にも出てきてほしい」と構想の一端を明かした。吉田も自分の理想を諦めるつもりはないはず。金足農は1年後、どんな形で夏を迎えるだろうか。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)