新人王でも上がらぬ年俸「酷かった」 告げられた理由に不満爆発「ちょっと待って」
![オリックスや巨人で活躍した熊野輝光氏【写真:山口真司】](https://full-count.jp/wp-content/uploads/2025/02/05122814/20250204_kumano_ys.jpg)
熊野輝光氏は1985年に新人王…打率.295、14HRをマーク
厳しい“金銭闘争”だった。元阪急外野手の熊野輝光外野手(四国IL・香川オリーブガイナーズ監督)は、1985年のプロ1年目に118試合に出場。打率.295、14本塁打、60打点、13盗塁の成績を残した。社会人野球・日本楽器(現ヤマハ)からドラフト3位で入団した28歳のオールドルーキーはパ・リーグ新人王とベストナインを受賞したが、オフの年俸交渉は「渋かった」と話す。「粘って、粘って、上がった金額は300万円ちょっとでした」と苦笑した。
プロ1年目の熊野氏は4月17、18日の日本ハム戦(後楽園)、19日の西武戦(平和台)で3試合連続3ランを記録。6月20日の西武戦(西宮)で10号を放つなど前半戦だけで13本塁打をマークした。後半は1本塁打に終わったが「自分では後半の方がよう打ったなという感じはありましたけどね」と話す。「夏まではホームランがよく出ていたけど、バッティングが粗かったと思う。後半はホームランは減ったけど、ヒットはよく打ったのでね」と振り返った。
実際、後半に打率がアップして8月終了時には.303と3割を超えた。そのまま3割前後をキープし、10月10日終了時点では.300だった。「あの時、(阪急監督の)上田(利治)さんに『Aクラスがかかっているから、試合に出てくれ』と言われて、その後も出たんです。周りからは『お前は出なくても規定打席はあるから、もうやめとけ。3割あるのにもったいないじゃないか』とか言われたけど、そんなのわからないじゃないですか、新人だから」と語った。
その年のパ・リーグは西武が制したが、2位から4位までは混戦。結局、阪急は2位・ロッテとは0.5ゲーム差、3位・近鉄とは、ゲーム差なしの1毛差の4位に終わったが、上田監督にしてみれば壮絶な争いを繰り広げる中で熊野氏の存在は不可欠だったわけだ。しかし、熊野氏は最後に打率を落とした。シーズン最終の10月18日の南海戦(大阪)で4打数2安打なら3割だったが、4打数無安打。.295でフィニッシュとなった。
上がらなかった年俸「昔は酷かったですよね」
それでも1年目で2桁本塁打&2桁盗塁を記録。新人王に選出された。60打点は1981年の巨人・原辰徳内野手の67や1984年の藤田浩雅捕手(阪急)の69に及ばなかったものの1980年の阪神・岡田彰布内野手の54や1984年、広島・小早川毅彦内野手の59を超える数字だった。
「今になって思いますよ。打点60ってけっこうよかったんじゃないかってね」と熊野氏は言う。その上でこう話した。「新人王はうれしかった。ベストナインもね。それなりにやれたなっていうのはありました。でもね、年俸は全然上がらなかったんですよねぇ……。300万円ちょっと上がって1000万円に満たない数字でしたからね。あの年、セ・リーグ新人王の広島の川端(順投手)は(推定年俸で)1200とかになっていたと思う。本当はどうだったか知らないですけどね」。
時代が違うとはいえ「昔は酷かったですよね。今だったら、3000万くらいはもらえるでしょ」と熊野氏は嘆かずにはいられない。「阪急のいいところはアットホーム的だったこと。だから選手とか家族的なことはすごく大事にしてくれました。それはありがたかったです。でもお金は渋かったなぁ。(エースの)山田(久志)さんや(世界の盗塁王)福本(豊)さんでも5000万とか6000万とかだったし、そりゃあ下の者は言えないという感じでしたもんね」。
熊野氏は1年目オフの契約交渉について「2時間半くらい粘りました」と明かす。「最初はアップ額が300万にも届かない数字を言われたので『ちょっと待ってください』と言いました。『お前、ナンボ欲しいんや』と聞かれて『月100万は』と答えたら“えー”みたいな感じで『ウチでは5年間の実績というのがあってな』って。『僕は来年29です。それはないでしょ、5年間の実績、したと思ってください』と言ったんですけど、駄目だったです」。
粘った末に一発サインしたが「新人王で保留は印象が悪いということでね。『(新人王とベストナインの)タイトル料を入れれば1000万超える。あとは“借り”』とかも言われて……。おかしいですよね。でも、そんなんだったんです。まぁ、しょうがなかったけど、それだったら(打率)3割でやめとけばよかったとか、そんなことも考えましたよ」。いろいろあったプロ1年目。オフの年俸闘争も熊野氏にとっては強烈な思い出となっている。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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