首位打者→.197の苦悩も決めた“覚悟” 自ら立候補した「C」…28歳、不退転の決意
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オリックス・頓宮裕真が抱いた感情「このままではダメだな」
不退転の決意と覚悟を示す「C」のマークが、ユニホームの左胸に輝く。復活を目指すオリックスの頓宮裕真捕手がプロ7年目のシーズンを、志願した「主将」としてチームを引っ張る。「自分のためにも、オリックスのためにも岸田(護)監督にお願いしました。しっかりと先頭に立って1年間、やっていきたいと思います」。静かに、そして強く言い切った。
頓宮は岡山県備前市出身。岡山理大付高、亜細亜大から2018年ドラフト2位でオリックス入団。長打力を秘めつつ、西武時代の山川穂高内野手(現ソフトバンク)から教わった左足でタイミングを図るフォームに替えてコンタクト率を高め、2023年は打率.307で首位打者に輝いた。
さらなる飛躍が期待された昨季は開幕で「4番・指名打者」で起用されたが、出場81試合で249打数49安打、打率.197にとどまった。「その日、その日で感覚が全くダメで、結果ばかりを追い求めてしまった。その感覚を取り戻そうとして、違うところを見て気付かないといけないところに気付けなかった」と反省を口にする。
「タイミングを取るために左足を上げた時、上体も一緒に上がってしまい軸がブレてしまった」ことが大きな原因だったという。チーム全体が打撃に苦しむ中で、主軸としての責任感がフォームを狂わせ、修正する余裕もなくしてしまった。
原因にたどり着いたのは、シーズンオフだった。「バットを1度、置いてみて気付きました」というほどだから、負のスパイラルに陥ってしまったのだろう。
岸田新監督になって迎えた高知での秋季キャンプ。ベテランや故障者らを除く参加選手に、頓宮の名前もあった。「秋季キャンプに行くとなって、このままではダメだなと。これをきっかけにしたい」と、主将としてチームを引っ張りたいという気持ちを宗佑磨内野手に伝えた。今季に復活をかける宗も賛同し、サポートを約束。岸田監督に直接、意向を伝えた。
「去年の成績でキャプテンという立場にはいけないと思いましたが、自分を奮い立たせる気持ちを込めました。周りに『ああだ、こうだ』という前に、自分が先頭に立って動かないと、周りに言えないし、周りにもやらせることができません。人にやらせる前に、自分がしっかりと動いて先頭に立っていきたい。厳しい決断だと思ったら、自分からは言いません」と思いを吐露する。
17日の紅白戦で2本塁打…「このままズルズルいくと、また弱いチームに戻ってしまいます」
秋季キャンプでは常に声を出し、背中でチームを鼓舞して引っ張る姿があった。キャンプ終了後に申し出を受けた岸田監督は「頓宮がキャプテンをやりたいと言ってきたんです。『自分にプレッシャーをかけて、自分を変えていきたい』というので、任せたぞ、と言いました」と目を細めて当時のやり取りを振り返った。
実は監督就任直後と、秋季練習中の2度、報道陣から福田周平外野手が退任して以来、空席となっている「主将制復活」について質問があった。2度目は「じゃあ、誰が適任だと思いますか」と岸田監督から報道陣に逆質問があったが、監督自身はその必要性は特に感じてはいないようだった。いきなりの方針変更だったが、岸田監督は「選手から言ってきて、そんなにやる気があるのならダメという理由はありません」。思いもよらぬ展開にも、チーム再建の手応えを感じ取っていたに違いない。
頓宮には、自身の発奮材料だけではなく、チームへの強い思いもあった。「去年、5位で終わって、本当にこのままズルズルいくと、また弱いチームに戻ってしまいます。自分のためにも、オリックスのためにもしっかりと責任を持って1年間、やりたいと思います」。
宮崎での春季キャンプでも、高知と同様に頓宮の声がグラウンドに響く。「声というのはスランプがありません。でも、誰でも出せますが、誰にでもできるものではないと思うので、頑張りたい。オリックスのいいところは仲の良いところですが、それが慰め合いになる時もあります。そこをなくして、監督やコーチに言われる前に選手間で言い合えれば」。17日に行われた紅白戦では2本のアーチを描いた。主軸としての責任と自覚が、今日も頓宮を奮い立たせる。
(北野正樹 / Masaki Kitano)
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