「大谷でなくベッツになれ」 西武育成出身22歳へ“珍指令”、西口監督の思い

二塁打でチャンスメーク→走力生かしタッチアップ、ヘッスラで同点ホームイン
■ロッテ 7ー3 西武(8日・ベルーナドーム)
西口文也監督就任1年目の西武は8日、本拠地ベルーナドームで行われたロッテ戦に3-7で敗れ、昨季と同じ最下位に転落した。浮上の鍵を握る選手の1人が、これまで全8試合に「1番・右翼」でスタメン出場している長谷川信哉外野手。躍動感あふれる22歳の若手成長株だ。
長谷川は0-1とリードされて迎えた初回、ロッテ先発・種市篤暉投手の147キロ速球をとらえ、鮮やかに三塁線を破る二塁打でチャンスメークした。続く西川愛也外野手の進塁打(二ゴロ)で三塁に進むと、3番タイラー・ネビン外野手が放った右飛はやや浅めだったが、三塁ベースコーチ(熊代聖人外野守備走塁コーチ)の「行け行け」の声に背中を押され、敢然とタッチアップ。相手右翼手のワンバウンドの好返球をかいくぐり、ヘッドスライディングで同点のホームを奪った。
「長谷川が単打でなく、長打で出塁してくれたのがよかったですね」と評したのは、こちらも就任1年目の仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチ。確かに、チームにとって理想的な点の取り方だった。ただ、試合は同点で迎えた6回以降、西武のリリーフ陣が崩れ、昨季4勝21敗とコテンパンにされたロッテに、今季初対戦でも黒星を喫した。
長谷川は2020年育成ドラフト2位で、福井・敦賀気比高から入団。2年目の7月に支配下登録を勝ち取り、2023年には59試合に出場し、4本塁打12打点をマークした。昨年は72試合で10盗塁を決めている。今季は打率.156(32打数5安打)、出塁率.229、0本塁打2打点(8日現在)で、今のところ活躍しているとは言い難いが、長打力と走力を兼ね備え、西口監督が1番に抜擢するのもうなずける好素材である。一方、西武にとって「1番」は、秋山翔吾外野手(現広島)が2019年限りで流出後、長らく誰も定着できず懸案となっている。昨季、チーム最多の51試合で1番を務めたのが源田壮亮内野手で、長谷川は31試合で源田に次いでいた。
「小さくまとまらず、あいつらしい打撃を貫いてほしい」
「いま、ハセ(長谷川)のスイングは大谷翔平になっているから、ムーキー・ベッツに変えてくれ」。開幕3戦目の試合前、長谷川は西口監督からこう声をかけられたという。昨季ワールドチャンピオンのドジャースの1、2番コンビになぞらえたわけだ。
とはいえ、ベッツはレッドソックス時代の2018年に打率.346、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2023年に自己最多の39本塁打を放つなど、長打力も備えている。長谷川は「ホームランよりもコンスタントにヒットを打つこと、ホームランを打つにしても、力感なく打つ感じが、たぶん監督の理想なのかなと思います」と受け止めている。西口監督からは「ファウルフライを打つ時に、(上体が)上を向いてしまっているので、それをなくしてほしい」、「“大谷翔平”のままなら、我慢して使わないぞ」と釘も刺されたという。
また、長谷川は仁志コーチにとっても思い入れのある選手のようだ。「僕自身も同じようなタイプの1番だった」と振り返る通り、仁志コーチは1990年代後半から2000年代前半にかけて、巨人の強打の1番打者として活躍した。だからこそ「周囲からいろいろな声が耳に入ってくるだろうけれど、長谷川には小さくまとまってほしくない。せっかく長打力もあるのだから、あいつらしい打撃を貫いてほしい」と強調する。長谷川は「仁志コーチからは、本当に毎打席毎打席、アドバイスをいただいています」とうなずいた。
潜在能力あふれる長谷川は、“練習の虫”でもある。春季キャンプ中、長谷川、ドラフト2位ルーキー・渡部聖弥外野手、未完の大砲・村田怜音内野手の3人は、チームで特に個人練習の量が多いと評判だった。長谷川は開幕8戦目のこの日も、フル出場後ウエートトレーニングに取り組み、球場をあとにしたのは試合終了2時間23分後の午後11時25分だった。「夜、体にある程度負荷をかけてから寝た方が、翌朝の仕上がりがいいことに気付いたので」と明かした。
「僕は昨秋の段階で、今季の目標をシーズン150安打と定めました。そこはぶれずにやっていきたいと思っています」と、まなじりを決する長谷川。この大きなチャンスをモノにできるだろうか。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

