記録よりも危機感 “9連続K”西武岩尾のシンデレラストーリー
本人も意識していなかった「9連続K」、無名右腕が飛躍への扉開く
「開幕投手は岩尾だ」。キャンプのころ、西武の田辺監督は開幕投手の話題が上がると、そう言って笑っていた。名もなき27歳の右腕は中継ぎで開幕1軍の当落線上。もちろん大役はエース岸に決まっていた(後に故障で牧田が務めた)。指揮官が名前を口に出す自体、期待をひそかにかけている証拠だが、当時はジョークでその名が使われていた。
岩尾利弘はシンデレラストーリーを駆け上がっていった。3月22日のオープン戦DeNA戦で7連続三振をマークし、開幕1軍切符を確実のものにした。それでも大差がついた場面での起用が主。大勢に影響のない場面でコツコツと登板を積み上げた。
ドラマは誰にも注目を浴びることなく始まった。4月12日のロッテ戦で2者連続三振、同18日のオリックス戦で3者連続三振。同19日のオリックス戦で再び3者連続三振を奪うと、スポーツ各紙に小さな記事で8者連続三振と載った。プロ野球記録は阪急梶本、東映土橋の9連続三振だが、岩尾は複数試合をまたいでの登板のため、参考記録扱いにしかならない。
メディア同様、岩尾自身もピンと来てない様子だった。「記録とかよりも1回、打たれたら2軍に落ちてしまうので」。さすがに1度の失敗では2軍に降格する立場ではもはやなかったが、当人はそれほど危機感を募らせていた。
岩尾が『ガラスの靴』を履く瞬間が訪れたのは、同22日の日本ハム戦だった。