「選手の個性を潰したくない」西武・辻監督が貫く自主性を重んじた野球
理想の野球を体現した序盤の戦い
春先に見せた西武の快進撃は、今季のパ・リーグ序盤戦におけるトップトピックとなった。元来、選手個々の潜在能力の高さには定評のあったチームだが、主力選手の退団もあり、下馬評は必ずしも芳しいものではなかった。指揮官は、いかにしてチームを引き上げたのだろうか。今季の戦いから勝負の後半戦へ向けた展望、そして、それらの根幹にある指導理念まで、今回のインタビューでは、獅子を率いる辻発彦監督の胸中に迫った。
開幕から1か月の間で積み上げた貯金の数は「14」。現在、リーグ首位を死守する西武は開幕ダッシュに成功し、ペナントレースをリードしている。
「4月までの1か月で14個も貯金ができたというのは異常なくらいで、私としてもびっくりしています。先発投手陣が頑張ってくれていたし、打線もチャンスの時の集中力があって、たくさんの得点を取れた。投打とも素晴らしかったです」
西武を指揮して2年目になる辻監督は衝撃の1か月をそう振り返った。戦前の西武がこれほどの開幕ダッシュをすると予想していた人は、そう多くはいなかっただろう。
野上亮磨投手(巨人)、牧田和久投手(パドレス)、シュリッター投手(ドジャース傘下マイナー)が活躍の場を求めて移籍した。先発、中継ぎともに頭数の計算が立たない状況での開幕は、苦戦を予想させた。加えて、開幕してからエース・菊池雄星投手の体調面に問題が生じ、スタート時の展望は決して明るくはなかった。
ところが、菊池が先発した試合に象徴されるように、投手が苦しい時は打線がカバーした。エースが崩れても、打線が打ち返す。開幕から6月29日の楽天戦まで、菊池に敗戦がつかなかったのは得点力の高さによるものだ。
菊池が先発する試合だけでなく、他の試合でもなるべく序盤から主導権を握って楽な展開に持っていく。大量得点を取るゲーム運びをすることで投手陣の負荷を軽減する戦い方は、投打のかみ合わせをいい方向へと導いた。
やはり、シーズン序盤のチームを支えたのは得点力だ。投手力の不安をカバーするというほどの打線は「でき過ぎなところもある」と選手たちは口にしていたが、ホームランに頼るのではない多彩な攻撃が多くの得点を生んだ。
例えば、打率・出塁率ともにリーグトップを争う1番の秋山翔吾選手が出塁しても、2番の源田壮亮選手は日本特有のスモールベースボールにありがちな犠打をするという決まりきった攻め方をしない。1点を狙う野球をするのではなく、多くの得点を重ねていくスケールの大きい野球を目指している。
辻監督は言う。
「こっちの先発と相手の投手を比較して、僅少差になりそうだったら、1回からバントも考えなくちゃいけないだろうし、3、4番の調子次第でも作戦は変わる。でも、今はそういう確実に送る野球をする時代じゃないんじゃないですかね。うちには源田、外崎(修汰)、金子侑司という盗塁ができる選手がいる。彼らが出塁したり、走者を一塁において凡打をしても走者に残ることができれば、盗塁をして送った形にできるわけですから。その強みがあるのは大きい」