33歳メジャーリーガーが私財を投じ… 岩手に誕生の複合野球施設「野球は冬のスポーツ」
基礎体力強化、適切な動作を身に付けるためのトレーニングエリア
世界を舞台に活躍する菊池雄星投手は、未来を切り開く子どもたちの育成を常に考えるメジャーリーガーだ。菊池がプロデュースする複合野球施設。“マウンドの王”を意味する「King of the Hill」(通称:KOH)が17日、同投手の故郷である岩手・花巻市にオープン。「野球は冬のスポーツ」とも言う彼のトレーニングの意識や、野球をする小学生・中学生たちを含めた“人材”を「育てる」思いは深い。
菊池が私財を投じて完成させた「KOH」は、約1400平方メートルの広さ。野球少年や少女から大人まで幅広く使える屋内施設には、4つのエリアが設けられている。バッティングエリアには、メジャー球団も使用している最新のピッチングマシンが導入される。専用のメガネをかけると100分の1秒単位で目の動きを測定でき、打者が自身のスイングを分析できる最新機器もそろう。ピッチングエリアには、7台のカメラで同時にピッチングを撮影し、体の動きを細かく分析できる装置も。さらにトレーニングエリアや、菊池が自ら集めたというメジャーリーグの往年のスターや現役選手のサインボールやバットが飾られているカフェエリアもある。菊池は言うのだ。
「最初は18.44メートルのブルペンがあればいい、または少しのウエートルームがあれば十分かなあと思ってスタートしました。でも、足し算ばかりして、気づいたらこういう風な施設になっていたという感じです(笑)。自分だけのものではなくて、岩手の方を中心に、たくさんの野球少年、あるいは少女ですね。地域の方々が集まるコミュニティの場になったらいいなあと思っています」
基礎体力の強化、あるいは適切な動作を身に付けるためのトレーニングエリアでは、数人の専門トレーナーがサポートする。トレーナーの1人はこう語る。
「年齢や発達に合った、子どもの頃に必要なトレーニングはあります。保育園や幼稚園に通うような子どもたちも、小さい頃から体を動かすことに触れていると、のちにスポーツをした時に、その技術を習得しやすくなるものです。また、中学生でも、その時期に必要なトレーニングはあります。持久力が一番伸びやすい時期でもある中学生の頃は、体を強くする、持久力を上げるトレーニングが大切だと思います」
トレーニングの解釈は人それぞれだろうが、「筋トレ」をイメージする人は少なくないだろう。ただ、「ストレッチもトレーニングの一種」と言い、柔軟性を育むことも子どもの頃から重要だと話す。
やり続ける「習慣」を身に付けることで、身体能力はカバーできる
トップアスリートであり、一人息子を持つ父親でもある33歳の菊池は、未来を担う子どもたちに向けて「大事なことは『僕もできる』と思うこと」だと語る。
「考え方として『あの人だからできたんでしょ?』ではなくて、あの人もできたから『僕もできる』と思うこと。それが、夢を叶えるファーストステップだと思っています。子どもたちの可能性は広がっていると思いますので、今回の活動などを通して、気持ちの持ち方なども広めていければと思っています」
能力に制限をかけているのは、いつも自分だ。そんな表現をする菊池は、自身の高校時代に視線を送りながら「目標の定め方」についても言及する。
「花巻東時代に、佐々木洋監督からは目標が近づき、『いける』と思った瞬間に、さらに『目標を上げなさい』と言われていました。高校に入学する時に『ドラフト1位で行くぞ』と言われ、1年夏で甲子園に出場したあとは『メジャーに行くぞ』と言われて。常に目標や夢を『更新しなさい』と言われていました。それは今でも僕の考え方の元になっていますし、子どもたちにとっても大事なことだと思います」
子どもたちの身体能力や運動能力の低下がささやかれる現代。日々の時間の使い方について菊池はこう言うのだ。
「たとえば、この施設に子どもたちが来る時間と言っても、週に2時間、あるいは3時間だと思うんですね。それだけで野球がうまくなることはないと思う。『うまくなる』きっかけを与えることはできると思いますけど、わずかな時間ですよね。ですから、残りの6日間、あるいは1日24時間の使い方をどうやって教えていくかということも、我々には必要なことだと思っています」
いかに、いい習慣を作るか、時間を有効に使うか。そして、何を食べるか、どうやって寝るか、どうやってトレーニングをするか。日々の目的意識や目標設定が大事だと語る菊池はさらに言葉を加える。
「僕自身、決して才能に恵まれていたとは思っていないんですね。ただ、『やり続ける』ということに関しては自信を持っているので、その習慣を子どもたちにも身に付けてほしいと思っています」
やり続ける習慣で、身体能力はカバーできるとも言う。技術を磨くことも、トレーニングをすることも「やり続ける」ことが大切なのだ。冬場の時期とて同じこと。いや、むしろオフシーズンの過ごし方が、未来を切り開いていくために重要だと菊池は話す。
「野球って、夏のスポーツだと思われがちですけど、僕は冬のスポーツだと思っています。冬に、いかに計画的に練習するかで、シーズン中の結果が決まってくると思っている」
冬場は寒さが厳しい岩手の地に誕生した屋内複合野球施設。菊池は「この場所からプロ野球選手、メジャーリーガーが誕生するのはもちろん目標ではありますが、野球がすべてではないと思っていますので、社会を支えるリーダーが生まれることを願っています」と言う。その言葉には、子どもたちへの熱いメッセージが詰まっている。
(佐々木亨 / Toru Sasaki)
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