地球の裏側にあるもう一つの野球 日本人にも貴重な経験となるドミニカ流
日本選手がメジャー関係者から称賛されるモノ
一方で、日本の野球が評価されるのは、基本がしっかり身についている、という点だ。日本に出向いたことのあるメジャー球団のスカウトたち、あるいは国際大会で日本の戦い方を見たメジャー関係者は、必ずこの「基本」という点を称賛する。
日本人選手がどうやって基本を身につけたかといえば、子供の頃に指導された反復練習の成果だ。投球にせよ、打撃にせよ、守備にせよ、理想型とされるひな形があって、できるだけその形に近づけようと、失敗を正す指導をする。子供たちも、失敗しないように理想型に近づこうという意識するため、いわゆる「基本」は身につく。また、子供の頃から勝つための戦術を意識するため、チームとして戦うことの「基本」も覚える。
だが、失敗しないこと、あるいは怒られないことを意識しながらプレーすると、残念ながら可能性が大きく広がることはない。辛い練習に耐えながら、ようやく勝利をつかんだ時の喜びはひとしおだろうが、大人とはいわず高校生になった時、どれだけの子供たちが「野球が大好き。野球は楽しい」と言い続けられるか、疑問に思うこともある。
まったく対極をなしながら、それぞれに長所短所を持つ日本とドミニカの野球。昨年の練習参加を経て、今年はウインターリーグの試合に出場できた筒香に限らず、練習生として同行した飛雄馬や乙坂智にとっても、20代前半の若さで、その違いを目の当たりにできたことは大きな経験になるはずだ。理想をいえば、彼らよりもっと若い世代、例えばリトルリーグやボーイズリーグの子供たち、あるいは彼らを指導するコーチや監督が、地球の裏側にあるもう一つの野球の姿を感じることができたら、日本の野球はもっと磨きのかかった、どの国にも劣らない野球に進化するのではないかと思う。
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佐藤直子●文 text by Naoko Sato
佐藤直子 プロフィール
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。