過去20年受賞者と徹底比較 豊作イヤーの新人王は源田&京田? それとも…
過去の受賞者から浮かび上がってくる「基準」は…
投票で決まる新人王は他の候補者の成績が引き合いとなるため、よほど図抜けた成績を残さなければ前半戦終了時点の成績で「当確」は灯らないが、過去の受賞者を見るとある程度の「基準」は浮かび上がってくる。
先発投手であれば「2桁勝利」をマークし「規定投球回」に到達して「防御率4点未満」に収めるのが新人王獲得への近道だ。先発での受賞者22人のうち15人が3つの要素を満たしていて、正田投手と野村投手は9勝にとどまったが、防御率で10傑入りしている点で光っていた。3要素を1つ以下しかクリアせず、新人王に輝いた先発投手は2人しかいない。
特筆すべきは前半戦終了の時点で「2桁勝利」に到達していた上原投手と小川投手で、野村投手は15先発して自責点わずか16の快投を披露していた。後半戦に大車輪の活躍を見せたのが石川投手で、上記の投手では唯一、100イニングス以上に達して7勝を上積んでいる。
表以外では川越英隆投手(1999年・オリックス)、吉見祐治投手(2002年・横浜)、岸孝之投手(2007年・西武)、岩田稔投手(2008年・阪神)、菅野智之投手(2013年・巨人)、高木勇人投手(2015年・巨人)が3つの要素を満たしていたが、他選手との兼ね合いで最多得票を得ることはできなかった。
先発投手の受賞者22人の前半戦終了時点でのアベレージをとると「6.6勝、89.8回、防御率3.29」で、これに最も近い成績を残していたのが濱口投手だ。先述のように、濱口投手は奪三振率が図抜けて高いが、こうした投球の「内容」よりも、分かりやすい「結果」が投票で優位に働く傾向にある。ただ、前半戦終了前に肩の違和感により登録を抹消され、後半戦のマウンドにはまだ立っていないだけに、早めの復帰が望まれるところだ。
救援投手は8人中7人がシーズン「50登板」を果たしており、6人が「20セーブもしくは30HP」をマークしている。14セーブを挙げた大久保投手の新人年はホールドが制定されていなかったが、前半戦は最長4イニングをこなしたタフネスで、現行のルールであればセーブ+HPは優に30を上回っていた。チームの勝ちを演出する起用法を勝ち取ることが、リリーフ投手にとっての前提条件だ。
勝敗と隣り合わせのポジションでは、要求されるレベルも高くなるのは受賞者8人の防御率を見れば一目瞭然だ。8人のうち7人が「防御率3点未満」で、唯一3点を超えた三瀬投手もリーグ全体の防御率4.68を考慮すれば、かなり低い数値を残していた(当時は20登板以上で防御率1点台以内の投手が両リーグに1人しかいない、打高投低が顕著な年だった)。
岩瀬仁紀投手(1999年・中日)や高橋朋己投手(2014年・埼玉西武)のように出色の成績を残しても、他に優れた先発投手がいれば印象が薄れるのは新人救援投手の宿命だ。しかし、摂津投手のように、1年目からタイトルを獲得できれば箔も付く。この点では、今後の黒木投手の起用法とともに、どれだけHPを稼ぐことができるかに注目したい。
野手の受賞者9人に目を向けると、走攻守で貢献できるタイプの選手が多い。打撃では、打率がリーグ平均を上回っていたのは8人いたが、長打率と出塁率の両方で平均値をクリアしたのは4人だった。この傾向から鑑みて「総合的な打力」よりも「ヒットを打った確率」の高さが、アピールにつながると言えそうだ。
小坂選手は打率、長打率、出塁率のいずれもリーグ平均に及ばなかったが、三振と同じ数の四球を選んだ。何より新人史上最多となる56盗塁を記録し、出色の遊撃守備が受賞の決め手だったと思われる。見劣りする打力を余りある走力と守備力でカバーする点で、源田選手は当時の小坂選手に近い存在だ。より攻撃的なショートである京田選手は、梵選手の残した打撃成績に近付ければ新人王が見えてくるのではないか。
京田選手は現在、セ・リーグ最多の8三塁打を記録しており、梵選手も新人年にリーグで最も多い三塁打を放っていた。部門別のリーダーであったり、ゴールデングラブやベストナイン級の活躍を見せることも新人王受賞を後押しする。実際、野手での受賞者9人のうち6人がその該当者だ。
前半戦終了時点で打率3割を超えていた選手はほとんどが後半戦で大きく数字を落としているが、3割未到達の選手は後半戦も大きな誤差なく終えているのが野手受賞者の特徴だ。源田選手と京田選手の走守での貢献は申し分ない。それだけに、両者とも打撃で波を作らないことがポイントとなりそうだ。
本命視されている選手が新人王に輝くのか、意外な選手の急追はあるのか。ルーキー豊作年の秋の収穫を楽しみに待ちたい。