謙虚さと努力と 西武山川の一発に詰まっている「アーティスト」のこだわり

「2軍にいる時の4番打者の僕と、1軍での4番打者の僕が一緒になってきたイメージ」

 また、もう1つ、打撃練習にフルパワーを費やす意義があるという。「毎回、うしろでは首脳陣、スタッフ、さらには相手チームも見ている。その中で、『こいつのバッティング練習、エグいな』と思われないといけない」。小学生の頃に野球を始めてから、常に4番打者を務めてきた男らしいプライドと、首脳陣へのアピール、そして相手への威圧。その全てを満たすことができるのである。

 再昇格後、「今日打てなければ、明日はない」と、2打席ずつ自らにプレッシャーをかけ、結果を出し続けてきた。その姿を評価し、辻発彦監督は8月20日の日本ハム戦から4番に抜擢したが、プレッシャーもあったに違いない。4試合連続無安打など、6試合18打数2安打2打点0本塁打9三振と、全く期待に応えることができなかった。そこで、一度5番に戻ると、たちまち復調。9月7日の千葉ロッテ戦から再び4番を任されるようになったが、今度は大きく調子を落とすことなく、結果を出し続けている。「十分役割を果たしてくれている」と、指揮官も沖縄出身の新4番に太鼓判を押す。

 今回、再抜擢されてから結果が出るようになったことについて、山川自身も、自分の中に大きな変化を感じていると語る。

「ここにきて、2軍にいる時の4番打者の僕(※2014年、16年イースタン・リーグ最多本塁打者)と、1軍での4番打者の僕が、一緒になってきたイメージがあります。『こういう時はこうだろうな』『ここはこう打たなきゃいけないな』など、状況によっていろいろある中で、でも、ベースとしてフルスイングだけは忘れちゃいけないなど、ファームだとできていた駆け引きが、1軍だと、今までは見失ってしまっていました。でも、ここ最近は、4番に座って続けて試合に出られるようになって、ファームの時と何となく同じような感じで毎日入れているので、それが、僕にとってはものすごく良い状態。この感覚をとても大事にしていますし、それが、いい結果を生んでいる理由だと思います」

 それでも、自分は『4番』ではなく、あくまで『4番目』の打者だときっぱり言い切る。「もちろん、4番としての責任はしっかりと心に置いて打席に立っているつもりです。でも、まだまだ。中村(剛也)さんのように、何年も続けて数字を残して、初めて『真の4番』になれるものだと思います」。憧れ続けてきたヒーローの偉大さを、いま、身を以て改めて痛感している。とはいえ、近い将来、その位置を目指していることは言うまでもない。

「今は、そこに向かってステップを踏んでいるという気持ちで毎日を過ごしています。徐々に徐々に良くなって、(4番として)どっしりしていくために、これからも、1球1球、1打席1打席に集中していきたいと思っています」

 謙虚さと、“練習”という裏付けのある努力。“アグー”の一発には、ホームランアーティストとしてのこだわりが、ぎっしりと詰まっている。

(上岡真里江 / Marie Kamioka)

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