【3割打者を考える(4)】平均打率に大きな変化なしも「4割打者」はなぜ絶滅?
打率トップと最下位の打者の差に変化
大の野球ファンだったアメリカの古生物学者スティーブン・ジェイ・グールドは、「Full House(日本での書名は「フルハウス 生命の全容」)」という著書の中で「なぜ4割打者は絶滅したのか」を全く違う観点から説明した。
グールドによれば、4割打者が消滅したのは、投打のレベルが上がったことにより打者の「標準偏差」の差が縮まったからだという。「標準偏差の差」とは難しい言葉だが、図にするとわかりやすい。
20世紀初頭、MLBはまだ球団数も16球団に過ぎず、選手数も少なかった。投手も打者も実力はまちまちで、剛速球投手や強打の野手もいたが、今の水準ではMLBには遠く及ばないレベルの選手もいた。打者の平均打率は、現在と変わらないが、実力差は大きかったのだ。だから飛び抜けた実力の持ち主が4割を打った。
しかし現在は30球団。選手数は多く、競争も激しい。その中から上がってくる選手の実力は拮抗している。打者だけでなく投手のレベルも上がった。リーグの平均打率は変わらないが、選手の実力差は縮まり、突出した選手は出にくくなっている。
1901年のアメリカン・リーグの首位打者はフィラデルフィア・アスレチックスのナップ・ラジョイで打率.426。最下位はミルウォーキー・ブルワーズ(現在のチームとは別)などでプレーしたジミー・バークの.226。その差は.200だった。一方、2017年のアメリカン・リーグの首位打者ヒューストン・アストロズのホセ・アルチューベは打率.346、最下位のトロント・ブルージェイズのホセ・バウティスタの打率は.203で、その差は.143。現代の野球で首位打者と最下位打者の打率の差が.150を大きく超えることは稀だ。