【パ・リーグお仕事名鑑】選手と共に戦う日本ハムトレーナーの1日 「笑顔のあるトレーナー室づくり」

常に一緒にいることで気づく変化

「実際に体に触れてみて分かることも当然ありますが、常に一緒にいるので、ふとした瞬間に『いつもと違うな』と感じることもよくあります。そういう直感はトレーナーとして大事にしていますね。特に若い選手は、ポジションを外されることを恐れて本音を言わないこともありますから。そういう時は選手の動きや態度などに変化がないか注意して見たり、こちらから声を掛けたりします。我々は選手が必要な時に素早く手を差し伸べられる距離にいるのがベストじゃないかなと思っています」

 石黒さんがトレーナーの道を目指したのは、鍼灸マッサージの治療院を営んでいた父親の影響だった。元々スポーツが好きで、自らも高校時代はテニス部に所属。そんな背景もあってスポーツ業界で活躍することを目指し、卒業後にはり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師の免許を取得した。

 スポーツマッサージ療院で働きながら現場経験を積んだ後、Jリーグのチームトレーナーとして契約。その後、オリンピック金メダリストの専属トレーナーだった先輩の紹介で、ファイターズで働くことになった。

「私は野球経験がないので、ファイターズに入った頃は競技の特性を自分なりに勉強しなければと思い、選手と一緒に夜間練習をすることもありました。あとは、なるべく積極的に選手とキャッチボールすることも。ダルビッシュ有選手がチームにいた頃は、よくキャッチボールの相手をさせてもらいました。ただ、テニスやサッカーなど他競技に携わった経験によって、体の機能や使い方については広く視野を持てるというメリットもありました」

 プロ野球の世界をよく知る先輩トレーナーからは、選手への接し方について多くのアドバイスをもらった。特に華やかな世界ゆえ「前に出ていく仕事ではないので勘違いしないように」、「裏方なのだから目立たないように」と助言を受けたこともあり、それは今も肝に銘じているという。

 野球選手のケアをするようになって改めて感じたのが、中継ぎピッチャーの過酷さだ。1イニング投げるだけであっても、シーズンを通してほぼ毎試合ブルペンで完全な状態を作り上げなければいけない。実際に体を触ってみることで、その大変さを思い知ったそうだ。

「現在、中継ぎで活躍している宮西尚生選手は以前に肩が痛いという時期があって、それを乗り越えて良い結果を出してくれた時はやはり嬉しかったですね。ほかにも、中田翔選手も怪我などで苦しい時もありましたけど、痛みを抱えながらも試合に出場し続けて頑張っている姿を見て心を打たれたことがありました。そうした日々のサポートが選手の活躍に繋がっていくところが、我々の感じるやりがいなのかもしれないですね」

 現在、ファイターズのトレーナーは1軍と2軍合わせて10人。ウエイトトレーニングなどを担当するコンディショニングトレーナーが2人と、石黒さんのように治療やリハビリなどを担当するメディカルトレーナーが8人だが、メディカル担当がトレーニングを見ることもあるという。また、リハビリ中の選手が調整することの多い2軍には、ほかに理学療法士も帯同している。

「治療においては、選手に対して今後の見通しをしっかり示すためにも、チームドクターとの連携が非常に大切です。見通しがぼやけていると、選手も不安になってしまいますから。それ以外にも、普段から前向きな言葉を使う、笑顔で会話するなどの要素が、怪我をしている選手と接する上ではかなり重要です」

トレーナーは“個”ではなくチーム

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