“イチロー節”全開、85分間の引退会見 一問一答ノーカット「孤独感は全くない」

「明日もトレーニングはしてますよ」

――グリフィーが、肩のものを下ろしたときに違う野球が見えて、また楽しくなってくると話していた。そういう瞬間は?

「プロ野球生活の中ですか? ないですね。これはないです。ただ、子どもの頃からプロ野球選手になることが夢で、それが叶って、最初の2年、18、19の頃は1軍に行ったり来たり……。行ったり来たりっておかしい? 行ったり行かなかったり? え? 行ったり来たりっていつもいるみたいな感じだね。あれ、どうやって言ったらいいんだ? 1軍に行ったり、2軍に行ったり? そうか、それが正しいか。そういう状態でやっている野球は結構楽しかったんですよ。で、94年、3年目ですね。仰木監督と出会って、レギュラーで初めて使っていただいたわけですけども、この年まででしたね、楽しかったのは。あとは、その頃から急に番付を上げられちゃって、一気に。それはしんどかったです。

 やっぱり力以上の評価をされるのというのは、とても苦しいですよね。だから、そこから純粋に楽しいなんていうのは、もちろんやりがいがあって、達成感を味わうこと、満足感を味わうことはたくさんありました。ただ、楽しいかっていうと、それはまた違うんですよね。ただ、そういう時間を過ごしてきて、将来はまた楽しい野球をやりたいなと、これは皮肉なもので、プロ野球選手になりたいという夢が叶った後は、そうじゃない野球をまた夢見ている自分がある時から存在したんですね。でも、これは中途半端にプロ野球生活を過ごした人間には、おそらく待っていないもの。たとえば草野球ですよね。草野球に対して、やっぱりプロ野球でそれなりに苦しんだ人間でないと、草野球を楽しむことはできないのではないかと思っているので、これからはそんな野球をやってみたいなという思いですね。おかしなことを言っています、僕? 大丈夫?」

――開幕シリーズを「大きなギフト」と言っていたが、私たちが大きなギフトをもらったような気でいる……。

「そんなアナウンサーっぽいことは言わないでくださいよ」

――これからどんなギフトを私たちにくれるのか?

「ないですよ、そんなの、無茶言わないでくださいよ。でもこれ本当に大きなギフトで。去年、3月頭にマリナーズからオファーをいただいてからの、今日までの流れがあるんですけども、あそこで終わってても全然おかしくないですから。去年の春で終わっていても。まったくおかしくない状況でしたから。今この状況は信じられないですよ。あのとき考えていたのは、自分がオフの間、アメリカでプレーするために準備をする場所が、まぁ神戸では球場なんですけども、そこで寒い時期に練習するのでへこむんですよね。心が折れるんですよ。でも、そんなときも仲間に支えられてやってきたんですけど、最後は今まで自分なりに訓練を重ねてきた神戸の球場で、ひっそりと終わるのかなとあの当時は想像していたので。夢みたいですよ、こんなの。これも大きなギフトですよ、僕にとっては。質問に答えていなですけど、僕からのギフトなんかないです」

――涙がなく、むしろ笑顔が多いように見えるのは、この開幕シリーズが楽しかったということか?

「これも純粋に楽しいということではないんですよね。やっぱり、誰かの思いを背負うということはそれなりに重いことなので、そうやって1打席1打席立つことは簡単ではないんですね。だから、すごく疲れました。やはり1本ヒットを打ちたかったし。応えたいって当然ですよね、それは。僕に感情がないって思っている人はいるみたいですけど、あるんですよ。意外とあるんですよ。だから、結果残して最後を迎えたら一番いいなと思っていたんですけど、それは叶わずで。それでもあんな風に(ファンが)球場に残ってくれて。まぁ、そうしないですけど、死んでもいいという気持ちはこういうことなんだろうなと。死なないですけど。そういう表現をするときってこういうときだろうなって思います」

――常々、最低50歳まで現役ということをいってきたが、日本に戻ってもう1度プロ野球でプレーするという選択肢はなかったのか?

「なかったですね」

――どうしてか?

「それはここで言えないなぁ。ただねぇ50まで、いや最低50までって本当に思ってたし。でもそれは叶わずで。有言不実行の男になってしまったわけですけど、でも、その表現をしてこなかったら、ここまでできなかったかなという思いもあります。だから、言葉にすること。難しいかもしれないけど、言葉にして表現することというのは、目標に近づく一つの方法ではないかなと思っています」

――これまで膨大な時間を野球に費やしてきたが、これからその時間とどう付き合っていくか?

「ちょっと今はわからないですねぇ。でも多分、明日もトレーニングはしてますよ。それは変わらないですよ、僕じっとしていられないから。それは動き回ってるでしょうね。だから、ゆっくりしたいとか全然ないんですよ。全然ないです。だから動き回ってます」

――イチロー選手の生きざまで、ファンの方に伝えられたことや、伝わっていたらうれしいなと思うことはあるか?

「生きざまというのは僕にはよくわからないですけど、生き方というふうに考えるならば……先ほどもお話しましたけども、人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。あくまでも、はかりは自分の中にある。それで自分なりにはかりを使いながら、自分の限界を見ながら、ちょっと越えていくということを繰り返していく。そうすると、いつの日からかこんな自分になっているんだ、という状態になって。だから少しずつの積み重ねが、それでしか自分を越えていけないと思うんですよね。一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、それは続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない。進むだけではないですね。後退もしながら、ある時は後退しかしない時期もあると思うので。でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。でもそれは正解とは限らないですよね。間違ったことを続けてしまっていることもあるんですけど、でもそうやって遠回りすることでしか、本当の自分に出会えないというか、そんな気がしているので。自分なりに重ねてきたことを、今日のゲーム後のファンの方の気持ちですよね、それを見たときに、ひょっとしたらそんなところを見ていただいていたのかなと。それは嬉しかったです。そうだとしたらすごく嬉しいし、そうじゃなくても嬉しいです、あれは」

――シンプルな質問ですけど。現役選手を終えたら、監督になったり指導者になったり、あるいは全く違うタレントになったりすることはあるけど……、

「あまりシンプルではないですね」

――イチロー選手は何になるのか?

「何になるんだろうねぇ。そもそも、カタカナのイチローってどうなんですかね? いや、元カタカナの一朗みたいになるんですかね。あれ、どうなんだろう? どうなんだろうね、あれ。元イチローって変だね。イチローだし僕って思うもんねぇ。音はイチローだから。書くときにどうなるんだろうねぇ。どうしよっか。何になるか……。監督は絶対に無理ですよ。これは絶対が付きますよ。人望がない。本当に。人望がないですよ、僕。うん」

――そうでもないと思うが。

「いやぁ、無理ですね。それくらいの判断能力は備えているので。ただ、どうでしょうねぇ。プロの選手とかプロの世界というよりも、アマチュアとプロの壁がどうしても日本の場合は特殊な形で存在しているので、今日をもって、どうなんですかね、そういうルールって。どうなんだろうか。今まではややこしいじゃないですか。例えば、極端に言えば、自分に子どもがいたとして、高校生であるとすると、教えられなかったりというルールですよね。確か。違います? そうだよね。だから、そういうのって変な感じじゃないですか。だから、今日をもって元イチローになるので、それが小さな子どもなのか、中学生なのか、高校生なのか、大学生なのか分からないですけど、そこには興味がありますね」

「本当に妻と一弓には感謝の思いしかないですね」

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