「野球以外では優しくしなさい」―軟式野球部を全国大会へ導いた女性監督の力
選手が忘れられない関口監督の言葉「そこでの優しさはいらないけど、野球以外では優しくしなさい」
関口監督はさいたま市立馬宮中学でソフトボールに没頭した後、全国高校女子硬式野球選手権で最多優勝7度を誇る名門の埼玉栄で野球を始めた。3年生の全国選手権決勝では、4安打を放って2度目の優勝に貢献。進学先の東京女子体育大学に硬式野球部がなかったため、クラブチームのサムライでプレーし、07年の第3回伊予銀行杯全国女子硬式野球選手権を制したほか、関東女子硬式野球のヴィーナスリーグではベストナインに2度輝いた名手だ。ポジションは遊撃か二塁を担当した。
プロへの道も考えたが、日本女子プロ野球リーグの合同トライアウト(入団テスト)に不合格。もっとも就職先の希望順位は、中学時代からの夢だった体育教師の方が上だった。「学校と先生と友だちと給食が好きで、人に何かを教えて喜んでくれる姿を見るのも大好きでした」と説明するように教師は天職なのだろう。
大学卒業後は北本市立中丸小学校に1年間の臨時採用。翌年、埼玉県の中学教員となって戸田市立戸田中学校に5年間奉職し、1年目から軟式野球部の顧問を任された。北本中に赴任して3年目を迎えたが、関口監督の着任と“同期”の現3年生は、非凡な選手が多く今年はまさに勝負の年でもあったのだ。
現役時代に実績を残したとあり、部活動での技術指導は卓越しているが、生徒と触れ合う姿勢も教師のお手本といえる。「我慢できないと試合に負けちゃうので、普段の生活から我慢することを教えています」と訴える関口監督は、「地味なことをコツコツこなす意味を見いだせない子が多いけど、社会に出たら辛いこと、理不尽なことがたくさんです。その時に助けてもらえる人間になるためにも、普段から他人のために尽くすように伝えているんです」と語る様子はまるで老練教師だ。
3年生はこんな女子監督をどう見てきたのか――。
打席に立つと何かが起きると期待される筒井堅悟は、「女性監督なので初めは驚きましたが、技術面ばかりか野球への取り組み方の大切さを教わった。先生には野球人としても人間としても育ててもらいました」と感謝し、副主将の井澤隼人は「技術面と精神面で鍛えられた。プレー中に優しさを出してしまう自分に『そこでの優しさはいらないけど、野球以外では優しくしなさい』と言われたのが忘れられません」と話した。
監督として初の全国大会については「もちろん勝ちにこだわりますよ、目標は優勝」と勝負師の厳しい表情で抱負を語る一方、「女子監督がいるだけで注目されますよね。シートノックもかっこよくやろう」とおどけた後、「かわいく映っている写真を載せて下さいね」と愛らしく笑った。猛暑日の試合では「私の敵は紫外線、いつもより厚めにファンデーションを塗って頑張るぞ」。何ともチャーミングで魅力的な女子監督である。
(河野正 / Tadashi Kawano)