応援団が見ていた「選手の真っ黒な顔」 連覇を狙う法大が外野席と繋がれた絆

19日の東大戦で右中間席からエールを送った法大応援団【写真:荒川祐史】
19日の東大戦で右中間席からエールを送った法大応援団【写真:荒川祐史】

開幕2連勝を飾った法大、外野席からエールを送った応援団の存在

 東京六大学秋季リーグが19日に開幕し、春秋連覇を狙う法大は東大に連勝。絶好のスタートを切ったが、選手を後押ししたのは、この秋のリーグ戦から活動が認められた応援団の存在だった。通常の応援席ではなく、外野席の最上段からリーダー部、チアリーディング部、吹奏楽部が一体となって送ったエール。その裏に、グラウンドと外野席に繋がれた絆があった。

 ダイヤモンドから遠く、右翼席の最上段から「チャンス法政」がこだました。19日の開幕戦。右中間席の最上段付近に陣取った法大応援団は吹奏楽部が奏でる応援歌にリーダー部とチアリーディング部が合わせ、歌い踊った。試合は4-2で白星発進。8回途中を2失点10奪三振の快投で勝利に導いたエース・鈴木昭汰(4年)は「マウンドに立った時、応援されているのは素晴らしいと感じたし、応援に応えたいと思った」と力に変えた。

 応援団にとって、特別な試合だった。この秋から応援団の活動が認められ、この日が初戦。新型コロナウイルス感染拡大により、活動自体がストップした。春のリーグ戦は8月に1試合総当たりによる特別ルールで開催されたが、応援団の活動は認められず。静かな神宮で躍動した選手たちは異例の短期決戦を勝ち抜き、史上単独最多となる46度目の優勝を飾ったが、球場で歓喜を分かち合うことができなかった。

 8月のリーグ戦春季リーグ戦に向けて練習する野球部を見学したというリーダー部責任者の山岸祥造さん(4年)は「野球部が一生懸命に頑張って(顔が)真っ黒になって練習していた。我々はずっと自粛で部屋にいたので“もやしっ子”みたいに真っ白。負けていられないと火がついた」という。

 チアリーディング部の津吹千花さん(4年)は「それぞれ場所は違ったけど、春は(東京六大学中継サイトの)『BIG6.TV』などで各自、応援する気持ちで試合を見ていた。今回はマスクで隠れているけど、笑顔かどうかは分かる。今までと変わらず、笑顔でやろうと全員心がけている」と語った。

 吹奏楽部は飛沫感染のリスクから最後まで参加が認められるか微妙だった。同部の須永祥平さん(4年)は「楽器に久しぶりに触れることができるだけでも感無量だった」と言う。3部が集まって練習できたのは1度だけ。それでも、神宮で奏でた音色は美しく、グラウンドの選手を後押しした。

 外野席から応援する映像、写真を見てネット上では「距離が遠すぎる」などの声も見られたが、客席にいて球場全体に響き渡る応援歌を聞くと、そんなことは感じない。法大・青木監督も「私は距離があるとは一切、感じなかった。いつも以上に聞こえていた」と言った。特に、これまで自校の応援団はベンチからすると後方寄りに位置しており、従来より音が直接、耳に届くようになったという。

 指揮官は「応援があって野球ができるのは改めて素晴らしいと感じたし、感謝の気持ちでいっぱいだった。応援団の皆さん(4年生)も3年半、一生懸命に下積みを経ての晴れ舞台だから、ここでできたのは良かったと思うし、素晴らしい応援で力を与えてくれた」と感謝した。

「東京六大学野球の華」と言われる通り、6校の応援団は、その多くが神宮の舞台に立つことに憧れ、門を叩く。選手のようにスポットライトを浴びる機会は少ないが、それでもキャンパスライフを捧げ、特に4年生は自分たちが幹部になる最後の1年のため、まさに「下積み」をしながら汗を流してきた。しかし、未曾有の感染症で春以降は活動ができず。だからこそ、巡ってきたこの機会は“最後の秋”だけじゃない、特別な意味を持つ。

 8月の春季リーグ戦を制した法大。しかし、優勝した時のみに歌われる「勝利の賛歌」が神宮に鳴らなかった。津吹さんは「野球部が優勝してくれたことで、秋に2連覇につなげるために優勝したいという思いが強くなった」と明かす。「優勝」はもちろん、野球部と応援団に共通した目標だ。

 20日の東大戦は雨に濡れながら、左中間席から応援が届けられた。距離は離れていても、互いに高め合い、励まし合う存在。今度こそ、秋の神宮の杜に、特別な歌を響かせる。グラウンドと外野席で繋がれた絆を“もう一つの武器”にして。

(神原英彰 / Hideaki Kanbara)

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