「キャッチボールもしたくなかった」 ロッテ美馬が語る移籍1年目、2桁勝利の舞台裏
試合中に熱くなる美馬を絶妙に抑える、捕手・田村の冷静な声掛け
2月末には早々と開幕投手に指名されたが、内心は「これじゃ投げられないなって相当焦ってました」と苦笑いで振り返る。どうにもこうにも思うような球が投げられない。右脇腹も痛めてしまった。そんな焦る右腕を、吉井理人1軍投手コーチは適度な距離感を持って見守った。
「ブルペンで酷い球を投げても、吉井さんは別に何とも言わなかったですね。『ダメだったら投げるのやめてもいいんやで』みたいな感じで、変に『こうした方がいい』『ああした方がいい』って言われることはありませんでした。ただ、ポイントでちょっとした一言をくれるんですよ。『ちょっとこうなってるかな』って気付かせるような一言を。そこを意識してみると『あ、なるほど』と思えることが多い。『どうしたらいいでしょう?』って聞くと『ああやってみたら?』『こうやってみたら?』と選択肢を提案してくれる。そういう距離感が良かったのかもしれません」
コロナ禍で開幕が遅れたことも、迷う美馬にとってはリセットに費やせる貴重な時間となった。
「脇腹の治療もできたし、ようやく冷静に自分を見られるようになりました。それまでは、どこがダメなのか考えると全部がおかしく見えてしまって……(苦笑)。実際に開幕した後も、シーズンが終わるまでたまにヤバいなっていう時もありましたけど、キャッチャーのリードもあってなんとか凌げましたね」
迷いは越えたものの、少なからず不安を抱えて迎えたシーズン。それでも2桁勝てたのは「キャッチャーのおかげ」とも話す。
「去年は、特にソフトバンク戦では同じことを続けると打たれるので、毎回何かを変えようと意識していました。『今回はフォークがダメだからスライダーでいこう』『インコースを攻めてみよう』っていうのが、うまくハマりましたね。田村(龍弘)のリードもありますし、柿(沼友哉)も分かろうとしてくれた。マリーンズで1年目でも、キャッチャーとしっかりコミュニケーションを取れたことは大きいと思います」
一見すると温厚そうだが、マウンド上では「メチャメチャ感情的になっちゃうんです。出さないようにはしていますけど、何試合かはキレてましたね」と笑う。シーズン中には、思い通りにいかず熱くなる右腕のタイミングを見計らうかのように、田村が話しかけてきた。
「僕が熱くなると、冷静に『これがダメだったら、こっちにしましょう』とか、『バッターがこんな感じで来てますけど、次どうします?』とか、イニングの合間にうまいこと話しかけてくれましたね。ただ、アイツは基本、試合中ずっと喋ってるんですけど(笑)。それでも同じチームになってバッテリーを組んでみて、データもよく見ているし、すごく考えているなと思いました。
キャッチャーが出すサインに根拠があれば、信頼して投げられるじゃないですか。ただミーティングで言われた通りにサインを出しているんだったら、『いや、俺はそれは投げられない』と思ったり、疑って投げてしまうことになる。でも、あそこまで考えて強気にサインを出してくれるんだったら『それでいこう!』って決意を持っていけましたね」