家庭の事情で野球を諦める子どもを減らしたい 元高校球児が差し伸べる支援の手
新しいグラブが買えずにボロボロになるまで使う「そういう美学はやめましょう」
ポニーリーグで道具提供支援をすることになったのは、会食の席での何気ない会話がきっかけだった。
「たまたま食事の席で中学硬式野球の話になったんですよ。そこで『道具が買えなくて野球を辞める子も多いんですよ』という話を聞きました。今はグラブでもバットでも、軽く4、5万円はするんですよね。コロナ禍の影響もあって、家計への負担は大きく、とても買えない家庭もある。それでは子どもがかわいそうだから道具の支援をしましょう、と。会食で使うお金を子どもたちの支援に回した方がええわってね(笑)」
知人を介してスポーツ用品メーカー・SSKの協力を仰ぎ、「サプライ用品助成制度」をスタート。年間600万円の支援を予定していたが、初年度から予算を超える応募が寄せられた。反響の大きさに驚きつつ、予算枠を拡大して応募者全員に道具が行き渡るよう手配した。
「新しいグラブが買えずにボロボロになるまで使っていたという美学はやめましょう、時代を変えていきましょう、と。なんか悲しい気持ちになるのは嫌じゃないですか。今後は世帯収入の基準をもっと下げて、会社が潰れるか、僕が死ぬまでやろうかなと(笑)。いや、このくらいのことは、ずっとできると思います」
怪我が原因で辞めた野球。「少し前まで野球と向き合うことができなかったんですよ。怪我で辞めて悔しい想いをしているんで。でも、今でもその経験は生きているんですよね」。1人でも多くの子どもに野球の楽しさを味わってもらいたいと、ポニーリーグを通じて支援することを決めた。
これからも様々な形で野球を愛する子どもたちを支援していくつもりだ。
「困っている時に困っていると言える雰囲気や環境作りをしないといけない。助けてもらった人は別の人の手助けをしますから。そういう想いを繋いでいければ」
育ててもらった野球への恩返し。善意のバトンは次世代に繋がれていく。
(佐藤直子 / Naoko Sato)