選手への“平等性”と勝負への“こだわり” 少年野球の「教員監督」が抱えるジレンマ

坂下監督がたどり着いた究極の最終目標は“親子の思い出づくり”

 年齢を重ねて、自然とバランスが取れるようになってきた。最近たどり着いた究極の最終目標は“親子の思い出づくり”だ。「今もまだまだですが、若い頃に比べると試合展開や周りが見えるようになってきました。せっかく野球に来ているのですから、勝つことも大事ですが、楽しかったとか、悔しかったとか、その日あったことについて晩御飯を食べながら親子やきょうだいで会話になることがいいのかなと」。そう話す坂下監督自身、高校球児を持つ父親でもある。

 坂下監督は北海道教育大函館校を卒業後、初任校の深川向陽小で野球の指導を始めた。業務の一環で部活動指導にあたる中学校や高校と異なり、少年団は課外活動なのでボランティアになる。「地方では、教員も地域の一員として何かやるという考え方が根付いていて、野球経験があってもなくても、若い先生が指導していました。その名残りはまだ北海道のいくつかの地方であります」と語る。

 保護者にとって安心感の大きい教員監督だが、働き方改革が進む中で指導を希望する先生は減っている。坂下監督は「若い先生たちにとっては少年団を持つことはすごい負担になっていると思います」と現状を語る。「私が採用試験を受けた30数年前には、外国語を教えることになるなんて想像もできなかったですし、iPadをひとり1台持つとか、総合学習だとか、自分が教育を受けていないことがどんどん入ってきているので」と学校での仕事量の変化を理由のひとつに挙げる。プロ野球という頂点につながっていく裾野の学童世代が置かれた環境は、決して楽観視できない。

 若い教員監督に何か伝えるとしたら――。そう尋ねると、少し考えてから微笑んで言った。

「もし自分が野球をやっていなかったら、どういう教員人生になっていたのかなと考えることがあります。野球を続けているからいろいろな方と接して、社会の多様性に触れることができる。野球をしていなかったら、知らないことがたくさんありました。家族の理解が必要ですが、苦労ばかりではないということを若い人には伝えたいですね。だって今年みたいな夢のような素晴らしい経験をすることができるのですから」

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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