30歳で社会人デビュー、研修は「地獄でした」 元DeNA左腕の“営業転身記”

「事業側を“裏方”と呼ぶのが、あまりしっくり来ないんですよね」

 営業職に就いてから、選手時代には知り得なかった野球の側面が見えてきた。

「選手の多くは、お客様=ファン、というイメージしか沸かないと思います。僕もそうでしたから。球場にある看板一つ一つが、どういう経緯で、どんな想いが込められているかなんて、全く知りませんでした。でも、営業を始めてみると、看板を出す背景を見ても、ベイスターズのファンだから出そうという会社もあれば、新設した会社の認知度を高めるために横浜=ベイスターズだから出そうというところもある。その中でも共通しているのが、ベイスターズを応援したいという気持ちなんですね。こういう形で応援してくれるお客様がいるんだ、と気付きました」

 そして、チームがシーズンを通して球場で熱戦を繰り広げるためには、その環境を整える球団の事業側、いわゆる“スーツ組”の存在が不可欠であることを痛感。ユニホーム組、スーツ組、両方を経験するからこそ、感じることがあるという。

「選手が余計なことを考えず、野球に集中できているのはいいことですし、そこで結果を残すことが仕事。正直、選手の時はチームあっての事業側だと思っていました。でも、今になって事業側あってのチームであることも実感しています。ベイスターズが成り立つにはどちらも欠かせない両輪のような存在。だから、事業側を“裏方”と呼ぶのが、あまりしっくり来ないんですよね。どっちも“表”なんじゃないかなって」

 もし現役時代に少しでも今のような考え方ができていたら、「野球に対する取り組みや意識が変わっていたんじゃないかと思います」。振り返れば、現役時代に球団がスポーツに関するいろいろな講義を開いてくれたが、当時は貴重な練習時間や休憩時間が削られるとしか考えられなかった。「あの時ちゃんと話を聞いていれば、自分の考え方が変わっていたかもしれない。過去に戻れたら、当時の自分に言ってやりたいです」と苦笑いする。

 日米球界でプレーし、ユニホーム組もスーツ組も経験する中後さん。誰にも真似できない道を歩んできたからこそ見える野球の魅力を、1人でも多くの人たちに伝え続けていきたい。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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