「勝利にこだわりすぎていた」 巨人・坂本育てた名将が“無欲”でつかんだ甲子園

全員野球と選手の自主性尊重でチーム力向上、創部初の関東大会優勝

 金沢監督は光星学院を率いた頃、春夏合わせて8度の甲子園出場を果たしている。当時は、勝利が全てだと思っていた。しかし、考え方が一転する出来事があった。新型コロナウイルス感染拡大による全国高校野球大会の中止。甲子園を目指す、野球ができる当たり前の日常が奪われ、心にぽっかりと穴が開いた。「選手もそうでしたが、自分の喪失感が凄かったんです」と振り返る。

 そんな中、代替試合として開催された茨城県の独自大会が、指導方針を見直すきっかけになった。通常の大会では20人に絞られるベンチ入りメンバーの制限がなく、全ての選手に出場機会が与えられた。それまでの甲子園を目指す戦いであればスタンドで応援していたはずの選手がヒットを放ち、グラウンドで躍動する。チームメートが喜びを爆発させる様子を見た金沢監督は「自分は間違っていたのかもしれない」と気付いたという。

 独自大会終了後、新たな考え方でチーム作りを始めた。野球以外のことを考える時間を作るために月曜日は練習を休みにし、木曜日は選手各自が課題に取り組むようにした。全体練習のメニューも選手たちが決め、ミーティングの時間も増やした。大会前でも、シートノックやフリー打撃に全選手が参加。選手の自主性を尊重し、全員野球を練習から実践した。練習の効率は落ちたかもしれない。それでも、金沢監督は「選手たちのモチベーションが高くなった」と収穫を口にする。

 実を結んだのは昨年の秋。創部初の関東大会優勝を果たし、選抜出場を確実にした。「1年生の時から技術も体格も素晴らしい選手が集まっていたので、甲子園に行く力はあるかなと思っていました。ただ、全員が最後まで諦めずにレギュラー争いをすることがいい結果につながったと思っています」と金沢監督。限られたメンバーの強化が、勝利への近道に見える。しかし、時間はかかっても全員の力を結集したチームは、これまでにない強さを手にした。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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