創部5年目の北海道ガスが“ドラ1候補”を倒せた理由…剛速球を「打たない」練習とは
北海道ガスの選手が編み出した「打たない」練習法
吉村攻略のカギは、投球マシンを150キロを超えるスピードに設定しての練習にあった。ここまでならよくある話だが、北海道ガスの選手たちは「打たない」練習に時間を割いたのだ。わざとボールの上を空振りする練習は、速球に圧倒されてボールの下を振らないようにするため。そして自分に向かってくる剛速球に、打席から投げたボールをぶつける練習は始動を速くするため。「気が付いたら、160キロくらいを相手にしていたみたいですよ」とは、見守った清水監督の弁だ。
突破口を開く安打を放った寺田は「甘い球は来ませんから。どんどん振って合わせていこうと思っていた」と言う。吉村と対戦しての感想は「ストレートもフォークの落差もすごい。考えても打てない投手から1本出せた」。どう打つかを考え抜き、自分たちで作った練習メニューの成果だろう。東芝との対戦が決まってから約1か月。さっそくの成果には指揮官も「自分で工夫するたくましさが出てきたかな」と目尻を下げる。
北海道ガスは、都市対抗本戦には2度目の出場で初勝利だ。創部当時は車庫の中に仮設のトレーニング場を作り、選手もわずか16人。監督やコーチも選手登録をしていたほどだ。当時から在籍する寺田は、チームの変化を見てきた。「練習メニューを任せられるって、なかなか体験したことがない。どうしても言われてやることが多いですよね。今は考えてやることで、意思疎通も図れている」と地道な成長に手ごたえを感じている。
寺田が「ここまで長かった気がします」という全国1勝を、ついにつかんだ。25日の2回戦ではJR西日本と対戦する。清水監督は「私は何もしませんよ。選手がまたミーティングして、いろいろ考えてくれるでしょう」。力量を知恵で補うのもまた、野球の面白さだ。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)