認めたくないイップス「腕の感覚がない」 ティモンディ高岸が“野球を消した”過去
イップスに向き合えたきっかけは、サンドウィッチマンに誘われた草野球
周囲に野球を辞めることを伝えると、悲しむチームメートもいた。「こういう人たちに恩返ししたい、こういう人たちに高岸とチームメートだったんだよって誇れるような人間になりたいと思ったんです」。当時、東日本大震災の復興支援を行う人気お笑いコンビ「サンドウィッチマン」の姿をメディアで見た。「芸人さんってこうやって人を応援できるんだ」。自分も芸人になって、応援をする側に回ろうと決意。大学卒業後、高校時代の同級生・前田裕太さんとコンビ組んだ。
事務所に入り、サンドウィッチマンの元へ挨拶に行くと、必然と野球の話題に。名門校出身に興味を持ってもらい、草野球に誘われた。自分の人生から野球は消し去っていたが、断るわけにもいかない。しかしそれが、イップス“克服”の転機となった。
「もうプロを目指しているわけじゃないから、10球中10球完璧に投げなくてもいいって思えていたんですかね。楽に『僕、イップスなんです』って言えたんですよね。全力では投げられるので、草野球お願いしますって」
学生時代は、誰にも相談できなかったイップスを周囲に告白。久しぶりにグラウンドに立つと、プレッシャーから解放され、肩の力は自然と抜けていた。「楽な気持ちで、楽しむ気持ちでやっていたら、キャッチボールもできるようになったんですよ。やっぱり野球は楽しいなと」。ある日、ふと球速を計ってみると150キロを計測。学生時代にも投げたことのない自己最速だった。
野球関連の仕事に引っ張りだこで、自慢の剛腕を披露することもあるが、イップスが完治したわけではない。「そのフォームで何百球も投げていたので、今でも(症状が)出る時はあります。『今、出てるな』って。でも自分ではもう受け止めているので。『力を抜いて、もう一回投げよう』って感じですね」。今となっては、ミスをする自分を受け入れ、許すことができる。
経験者だからこそ、同じ境遇の選手の気持ちも理解できる。「どんな一流の選手でも、ミスしない選手はいなんですよ。1球抜けたくらいで、野球人生、自分の人生は終わらないですから」。オレンジのスーツを身にまとい、満面の笑みと明るいキャラクターで、元気をふりまく。辛さを味わった経験があるからこそ、前向きな言葉は、人々の心をつかむ。
(上野明洸 / Akihiro Ueno)