あえて子どもに求める「成果主義」 少年野球のカリスマ・辻正人監督の“時代先取り”指導
選手絞り込みの基準は「実力」 保護者に左右される練習参加率は不平等
コーチからの提案に、おおむね同意した。ただ1つ、選手の絞り込みで「やる気」を判断基準にすることへの疑問が残った。チームが自由参加にしている平日練習に参加したり、土日の練習開始時間より早く来て体を動かしたりする選手が必ずしも、やる気があるとは限らないからだ。
「子どもたちがグラウンドに来るには、保護者の送迎が必要になります。練習参加は子どもたちの意思だけではなく、保護者の事情に左右されます。練習に来ていなくても、家で努力している選手もいるはずです。やる気を基準にするのはフェアではありません」
選手に序列をつける基準を「実力」とした。極めてシンプルに、練習や試合で発揮するパフォーマンスだけで選手の力を評価する。コーチ陣は実力主義に納得した。だが、強く反対した指導部のスタッフがいた。女性マネジャーだった。
クラブの指導部に保護者はいない。この女性マネジャーは、かつて息子がチームに所属しており、息子が中学生になってから辻監督に「力を貸してほしい」と協力を求められていた。母親目線から、序列をつけた実力主義のチーム作りに猛反対したという。辻監督は繰り返し自身の考え方を説明した。
「女性マネジャーからは、Aチームに入れず、やる気を失う保護者が出ていくると言われました。でも、序列がない時代だからこそ、はっきり序列をつけようと説得しました。自分の位置を知ることで頑張れる。傷ついてやる気を失ってしまうのであれば、活躍できる他のチームに移ってもらおうと伝えました」
最終的に女性マネジャーは首を縦に振った。これまで6年生を中心にしたチームは20人で構成していた。週末に練習試合を1日2試合組むと、1試合目はレギュラー、2試合目は控えメンバーが主に出場していた。今はAとBの2チームに分けて1日2試合ずつ消化しているため、全ての選手の試合経験が倍増している。