巨人で培ったノウハウ注入で2軍参戦 “NPB基準”の編成や営業の課題「レベルが違う」
11月のオーナー会議で進捗状況を報告し正式決定へ
来年からNPB2軍のイースタン・リーグに新規参加することが内定した、新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ(BC)。これまで独立リーグのルートインBCリーグで17年間活動してきたが、11月のNPBオーナー会議で進捗状況を報告し、問題がなければ新天地への参加が正式決定する。その中で特別な感情を抱いているのが、元巨人球団職員で現在新潟アルビレックスBCの取締役総合営業部部長兼編成部部長を務めている辻和宏さんだ。
内定を受けて、新潟アルビレックスBCは2日に新潟市のHARD OFF ECOスタジアムで記者会見を開き、池田拓史社長が詰めかけた報道陣の質問に対応した。辻さんは司会として取り仕切っていた。
もともとは、新潟と縁が深かったわけではない。静岡県出身で磐田南高を経て、大体大野球部に入部。2年生までは内野手だったが、マネジャー業務などを担う『主務』への転身を打診された。「プレーヤーを辞めなければならないので、すごく嫌でした。しかし一方で、実力的にレギュラーになるのは厳しいと思い始めていましたし、主務は60人くらいいた同学年の中で1人しか選ばれない重要な役割でした」。迷った末に転身を決断したことが、その後の人生にも影響を及ぼすことになった。
大学在学中に体育教員の免許を取得し、教職に就くつもりだった辻さんだが、4年生の8月、巨人がその年から定期採用を始めたことを知りエントリーした。あえなく書類選考で落ちたが、その後、巨人が12球団でいち早く小学生向けのアカデミー事業に乗り出すことになり、呼び出しを受けた。「僕はエントリーシートに野球の普及に関することだけを書いていたので、担当部長となる人が目をつけて下さったようです」。
巨人では1年目の2006年から、ジャイアンツアカデミーの立ち上げに携わった。元巨人捕手の高田誠さんをヘッドコーチに、プロのノウハウをいかにして“子ども目線”で指導に落とし込んでいくかをスタッフの間で徹底的に話し合い、指導体系を確立していく。コーチとして実際の指導も行った。「大人が子どもたちの目線で話すのは、なかなか難しいことです。声かけ1つ取っても、大人と話すのとは違います。そこで、大学時代に教員を目指して勉強したことが役に立ったかなと思います」と振り返る。
「経営面でも編成面でも、やらなければいけないことがめちゃめちゃ多い」
巨人で6年間を過ごし、指導テキストが完成。アカデミー事業はNPBの他球団にも広がり、一定の達成感を抱いていた頃、転機が訪れた。様々な縁が重なり、新潟アルビレックスBCから誘われたのだ。「(規模の小さい独立リーグ球団なら)営業、チームの運営など、あらゆる面に携われると考えて、無謀にも飛び込んじゃった」と笑う。
当初は巨人時代同様、アカデミー事業の立ち上げを任されたが、今度は“1人スタッフ”だった。現役選手、OB、アルバイトの学生などを動員しながら、約100人の子どもたちと向かい合った。会員となった子どもは、新潟アルビレックスBCと同じデザインのユニホームを着用。「アルビレックスのオレンジ色の帽子をかぶった子どもが増えていくのがうれしかった。そう言えば、チームカラーは(巨人と)同じオレンジですね」と目を細めた。
辻さんが立ち上げたアカデミー事業は、現在も『野球塾』として継続されている。一方で、徐々に球団経営にも携わり、いまや営業とチーム編成を統率する立場である。「最初からNPBへの参加を目指したわけではありませんが、野球で新潟の街づくりに貢献し、本当の意味でプロ野球になっていきたいという思いは、新潟アルビレックスBCのみんなで共有してきました」と語る。「11月に2軍戦参加が正式に認められて、(旧知の)巨人の皆さんと同じ舞台で顔を合わせることができたら、うれしいですね」と感慨深げだ。
NPB2軍戦に参加すれば、試合数はBCリーグでの今季63試合から、年間約140試合へと倍以上になる。選手やコーチの増員、室内練習場や選手寮の新設など、課題は多い。「現時点でNPBとはレベルが違う。少しでも早く追いつかなければ。ワクワクしていますが、同時に経営面でも選手の編成面でも、やらなければいけないことがめちゃめちゃ多いです」と苦笑するが、その表情にはやりがいがあふれている。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)