“東大野手初”のプロ目指す2年生がベストナイン 「理詰め」で描く成長曲線
東大2年・酒井捷は打率.316をマークし、チームでは12季ぶりベストナイン
東京六大学野球秋季リーグは30日に慶大の4季ぶりの優勝で幕を閉じたが、東大の酒井捷(すぐる)外野手(2年)が、チームでは2017年秋季の楠田創外野手以来、12季ぶりのベストナインに選出された。右投げ左打ちで俊足好打が持ち味。東大野手では前例のないプロ入りを目指すと公言している。
「今は驚いています。自分にベストナインを取れる実力があるとは思っていませんし、取れると思っていませんでした」と謙虚に語った酒井捷。今季は1番打者を務めチームトップでリーグ12位の打率.316(38打数12安打)、4盗塁をマーク。リーグ最多の5二塁打は特筆ものだ。
今年の春季リーグでレギュラーの座を獲得し、早速打率.270の好成績を残したが、夏を経てさらにスケールアップした。「春は自分の技術で打ったというより、運が味方した感じで、自分がなぜ打てているのかわからないままシーズンを終えてしまいました。夏にしっかり分析して、もう一度打撃フォームをつくり直した結果、今季は打てた理由も、打てなかった理由もしっかりわかっています」とうなずく。
夏の打撃フォーム改造の際に参考にしたものの1つが、阪神・近本光司外野手の動画だった。「近本選手は足を上げた時のバランス感覚がすぐれていて、タイミングの取り方、ステップまでの動作がすごくきれいだと思います」。酒井捷自身は春に比べて右足の上げ方を小さくした結果、タイミングが合いやすくなり、変化球への対応力も向上したという。
大久保裕監督代行(助監督)は「コンパクトで、テークバックからミートまで無駄がなく、ヘッドも下がらない。すごくいい打ち方だと思います」と称賛。「いいお手本があるのですから、ウチの他の選手も真似をしてくれればいいのですが……」と苦笑する。
法大戦に勝って号泣「先輩にいじられました」
酒井捷は宮城・仙台二高3年の夏、県大会で初戦敗退。「甲子園に出ているような球児と東京六大学で対戦したいと思って」と東大に挑戦し、現役合格を果たした。プロについて「はい、目指したいです」と言い切る。
東大出身のプロ野球選手は過去6人で、全員投手として入団している(現東大監督の井手峻氏は中日入団後、4年目から外野手転向)。「外野手でプロへ行くとなると、東京六大学で圧倒的な打撃センス、圧倒的な足の速さの両方を兼ね備えていないと厳しい。そういったところが野手の指名が少ない理由であり、自分の課題だと思います」と分析。ハードルが高いのは覚悟の上だ。
今月8日の法大2回戦に4-2で勝ち、約1年ぶりに白星を挙げた際には号泣。「恥ずかしかったです。先輩にいじられました。1年間勝てていない状況だったので、勝った瞬間に目の前がパッと明るくなった感じで泣いてしまったのですが、先輩たちはそれほどでもなくて……」と照れることしきり。理詰めで分析するイメージとは裏腹に、感激屋でもあるようだ。
「せっかく東大に入ったのだから、もっと安定した職業を考えた方がいいのではないか」と語るスカウトもいるが、20歳になったばかりの酒井捷が思い描く人生は魅力があふれている。2年後へ向けどこまでプレーヤーとして成長し、スカウトの目を引く存在になれるか楽しみだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)