勝負の野球から楽しむ野球へ 人気低迷に待ったをかける「オトナ野球」の魅力
勝負だけではない、投げて打つ楽しみ
国際審判員の小谷啓介氏は、甲子園、社会人野球など35年間で4000試合の経験がある。
審判は、選手よりも長く野球に携わることができる。そして甲子園でのクロスプレーでは、5万人が注目する。ここで絶妙のタイミングでジャッジすれば試合は一気に盛り上がる。
審判の一番の仕事はその試合を成立させることだ。そのためにゲームコントロールが重要だ。高校野球には審判は2時間が与えられている、単に時間内に終わらせるだけなら、ストライクゾーンを広げ、選手を急かし、際どいプレーをアウトにすればよいが、(より良いコントロール法として)監督や選手、観衆にストレス与えないためには、正確な判定をする必要がある。そうなれば選手も信頼してくれて試合は短縮化する。
国際大会では、地域によってストライクゾーンが違う。アジア圏は似ているが、オランダなどは異なっている場合が多い。
しかし、ゾーンの違いが話題になるのは日本だけだ。他の国の選手は判定にそのまま従うが、日本では捕手が捕球時にミットを動かしたり、ストライクだと思った球がボールと判定されるとミットを固めたりする。これは日本で多く見られ、そういう動作をする捕手は海外の審判からは、バッドキャッチャーだと判断される。
これを受けて小谷氏は、ストライクはストライクゾーンを通過したボールで審判がストライクとジャッジしたものという基本を理解すべきだと訴えた。日本の野球では、高校に入るころから「勝負」が中心になる。プレーを楽しむ「ベースボール」はいつからか勝利至上主義の「野球」に変わっていく。
小谷氏は、ワールドマスターズゲームでは30年ぶりに選手としてもプレーしたが、「勝敗」ではなく、「投げて打つ」という野球の原点を日本の野球も取り戻すべきだと主張した。
和歌山大学准教授、彦次佳氏は、野球の便益が
・年代によって異なる便益
・加齢により発達する便益
・年齢にかかわらず普遍的な便益
の3つに分かれると紹介。野球人気が下がっている中で、生涯スポーツとしての野球、そして国際的なスポーツとしての野球の意義について深く考察すべきだとシンポジウムを締めくくった。
(広尾晃 / Koh Hiroo)