「日本の常識が非常識」―“松坂世代”の久保康友が米独立Lに挑んだ理由(下)

「野球界という視野の狭いところにずっといた」

 そもそも日本国内の独立リーグからもオファーがあったはずなのに、なぜアメリカの独立リーグに挑戦しようと思ったのか。

「理由なんてないですよ。一言で言うと好奇心。野球を違う目線で見たかったというのもあります。今まで日本のプロ野球にいた時は日本に来る外国人選手を見て『外国人選手って何でこんな考え方なんやろう。もっと練習したらいいのに』とか色んな疑問を持っていたんです。でも、それは彼らの常識の範囲内での行動。反対に自分がその『常識』はどんなものなのか、身を置いて感じてみたかったんです。向こうの常識が日本の非常識なら、日本の常識は向こうの非常識。実際に今年、アメリカに行って、あらためてそれを感じました。

 日本は良い意味で非常識で、トラブルを起こさないように必死に色んなことで守ろうとします。でも、向こうは危険やトラブルがあることを前提に行動をしているんです。だから、いざトラブルに遭っても慌てない。チームをクビになっても感情的にならずに『次はどうしようかな。野球を続けようか。ダメならバスケットやってもいいか』みたいに考えられるんです。職場や職種は変わるけれど、あくまで『生きていく中での選択肢のひとつ』なので、落ち込んでいる暇があったら次のことを考えています。もっと言うと、色んなことが起こりすぎるので楽観的にならないと生きていけないと思います」

 そういう意味では、野球を飛び越えて、ものを見る世界観は明らかに広がった。そしてもうひとつ、アメリカで見たある光景が忘れられない。

「試合の前に球場を地域の人に貸すことがあるのですが、その地域の人たちがその時間にキックベースボールをやっているんですね。運動をあまりしないような体型の人たちばかりなんですけれど、それでも子供から大人まで男女関係なくすごく楽しそうに動き回っているんです。日本では野球の競技人口が減っていると言いますけれど、そもそも日本は何でもスポーツを競技化しすぎていませんか? 野球をするにしても、始める側が自分は苦手だから簡単に始められないって、どこか構えてしまうところがある気がするんです。

 向こうはまず、体を動かすことが楽しいというところから入ります。いわば“体育”みたいな入り口がある。キックベースは大きな柔らかいボールを蹴るところから始めるので、女の子でも気軽に始められます。でも、日本は運動を始めるにあたって、まずうまくないといけないとかハードルが高すぎるんです。だからスポーツをしたくても気軽に始められない“食わず嫌い”の子が多いのかなと。だいたい野球はバットのように細い棒にボールを当てますが、やっている方は難しくなくても、初心者からすれば難しいですよ。だから『こんな棒に当てるなんて自分には無理』って敬遠してしまう子もいるはず。スポーツに慣れ親しむには、まず運動未経験の子たちの目線になって考えていくべきだと思います」

 野球という壁を取っ払い、ベースボールの世界に入り込んだ2018年。今年はどのチームでプレーするかは未定だが、また海の向こうでプレーしたいと思っている。かねてから希望していたメキシカンリーグ入団の思いも薄れていない。

「野球界という視野の狭いところにずっといたので、知らないことが何かも分からなかったんです。でも、これからももっと色んなことを経験して感性を磨いていきたいですね」

 久保の野球という名の“冒険”はまだまだ始まったばかり。今、久保の胸の中は好奇心とチャレンジ精神であふれている。(了)

「あの国に何があるんや」―“松坂世代”の久保康友が米独立Lに挑んだ理由(上)

(沢井史 / Fumi Sawai)

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