なぜ少年野球の「盗塁」は禁止すべきなのか? 背景にある「野球離れ」と「勝利至上主義」

「勝利至上主義」に走る指導者にも原因が…

 昭和の時代、野球は日本のナショナルパスタイムだった。その時代の小学生は空き地や公園で思い思いに野球あそびをしていた。当時、学童野球クラブに入るのは、その中でも野球が得意な子どもだった。もともとレベルが高かったのだ。しかし、今、学童野球クラブにはそれまでほとんど野球経験のない子も入ってくる。数も減っているうえに、レベルも下がっているのだ。

 最近の学童野球の試合では、試合前のノックを見るだけで実力差がはっきり分かることもある。強いチームの子どもはゴロを捕って普通に送球することができるが、弱いチームの中にはゴロを捕球することができず、ボールがグラウンドのあちこちに転がっていたりする。こういう対戦では、試合結果はやる前からわかっている。そして強いチームが「ゴロ、バント、盗塁」の繰り返しで延々と点を取り続けるという光景を目にする。

 もう1つは「勝利至上主義」だ。野球離れが進む中で、選手を集めるために「全国大会出場」や「○○大会優勝」などを売り文句にするチームがある。そういうチームは選手数を維持するために「結果」を追求することが多く、指導者が「教育」「育成」よりも「勝利」を優先させることにつながっている。

 また、競技人口は減っているが、大会数は減っていないので、各チームの試合数は増加する傾向にある。このため強いチームは「楽をして勝利を求める」傾向が強くなる。少年野球の指導者の高齢化も大きい。ベテラン指導者の中には、最新のコーチングやスポーツマンシップなどについて学んでいない人が多い。このために「勝てばいいんだろう」という指導をしがちになっている。

 アメリカのリトルリーグでは盗塁が実質的に禁止されている。リトルリーグには様々な体力、能力、経験値の子どもがやってくるからだ。上のレベルに合わせてしまうと小さな子ども、経験に乏しい子どもが野球を楽しむことができない。とりわけ「盗塁」は、技量の格差が出やすいため、盗塁を禁止したのだ。「少年野球は何のために行っているのか」を考えれば、リトルリーグの方針は誠に妥当だと言えるだろう。

「盗塁のない野球なんて考えられない」「盗塁阻止できないなら、努力すればいいじゃないか」と言う人は、少年野球の試合を見ることをお勧めする。危惧するのは、いつまでも相手の攻撃が終わらない試合を経験した弱いチームの子どもが「野球なんて面白くない」と思うことだ。「野球離れ」が加速しかねない。「みんなが野球を楽しめる」環境を作るためにも、少年野球の「盗塁」は見直すべき時に来ている。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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