肩・肘に負担かけずに硬式に近いボールを開発 「7代目」軟式球に詰まった老舗の技術
車好きの前会長が黒いゴムを使った二重構造を考案
4代目のボールに黒いゴムを使うよう発案したのは、2年前に他界した長瀬二郎さん。ナガセケンコー長瀬泰彦会長の父にあたる。車好きだった長瀬二郎さんは、車の安全性を支えるタイヤのゴムに着目し、軟式ボールの表面は白いゴムのままで内側に黒いゴムを使う二重構造を思い付いた。白いゴムだけのボールはバットで打つと、だんだん膨らんでいく。一方、カーボンが入った黒いゴムは強度が出るためボールを硬くできる。ボールの変形を少なくして、飛距離を生み出した。
ただ、1つ問題があった。ボールは硬くすると割れてしまうのだ。ナガセケンコーは変形を抑えて、なおかつ割れないボールを目指した。天然ゴムに配合する薬品の割合を細かく調整。さらに、黒いゴムに白いゴムを張り合わせる時、真空にする技術で硬くても割れない軟式ボールを完成させた。白と黒、2つのゴムを使った二重構造は現在のボールの原型となっている。
2018年から導入され、主に中学生以上が使っている「M号」にはナガセケンコーの技術が詰まっている。追い求めているのは「子どもたちの体に負担がかからない硬式に近い軟式ボール」だ。軟式と硬式の違いに挙げられるのがバウンド。以前使用されていた「M号」とほぼ同じ大きさの「A号」は、150センチの高さから土に落下させると80センチ弾んだ。同じ条件で硬式ボールは20センチしかバウンドしない。
ゴムでできている軟式ボールが硬式より弾むのは当然だが、ボールの中に使う黒いゴムが改良され、「M号」は54センチまでバウンドを抑えている。また、「M号」は「A号」よりもボールの変形を抑えて回転がかかりやすいようにして「軟式は安打や長打が出にくい」という指摘にも対応。実際、本塁打の確率は高くなっているという。