練習後のストレッチは「痛みを伴ってはいけない」 疲労回復のコツとは?
痛みを伴わないストレッチにより、運動後の回復が促進される
肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「ケガをしないこと」だと語ります。練習中の投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータ、簡単にできるトレーニングやストレッチなども紹介していきます。今回の担当は貝沼雄太さん。クールダウンに行うと効果的なストレッチについて解説します。
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この連載では以前、「肩の怪我予防へ、本当に効果的なストレッチは? カギは“静”と“動”の組み合わせ」というタイトルでスポーツ前にストレッチを行うことの効果をお伝えしました。簡単に説明すると、スポーツ前のストレッチはスタティック(静的)ストレッチで筋肉を伸ばして関節が動く範囲を広げることが重要である一方、それだけではパフォーマンスが低下するため、ダイナミック(動的)ストレッチを併用することが望ましいです。
さて、今回はスポーツ後のストレッチの効果についてお伝えします。
スポーツ後のストレッチは疲労回復を目的に行われますが、その方法は少々厳密でなければなりません。その方法というのはスタティック(静的)ストレッチであり、痛みを伴ってはいけないということです。痛みを伴わないストレッチによって、運動後の筋力と関節可動域(関節が動く範囲)の回復が促進されます。
筋力と関節可動域がすみやかに回復することによって翌日のパフォーマンスが上がることは言うまでもないでしょう。また、投球による肩・肘のケガと体幹・股関節の柔軟性が関係することもすでに報告されています。肩・肘だけでなく体幹や股関節を含め全身的なスタティック(静的)ストレッチを行うことが望ましいです。
それでは痛みを伴わずに行うスタティック(静的)ストレッチの方法はどうすればいいのでしょうか?
最も大切なことは先ほども伝えましたように痛みを伴わないことなのですが、上手に行なっている選手を見ると談笑しながらストレッチをしています。痛みを伴わないというのはストレッチに集中し過ぎていないとも言えます。仲間や家族と談笑できる程度の強度が良いですね。ストレッチする時間は1種目につき15〜30秒間にしましょう。
最後に、スポーツ後のストレッチに関する研究は多く、実は疲労を回復するとする研究もあれば疲労回復とは関係ないとする研究もあります。また、疲労回復に限った議論となるとアイシングとストレッチが比較されています。アイシングの疲労回復効果はストレッチと同等であるとする研究もあります。さらには、能動的休息(ウォーキングや軽いジョギングなど)は筋力の回復に関してはストレッチよりも優れることが報告されています。実際にはストレッチだけではなく、アイシングや能動的休息を組み合わせた疲労回復が望ましいようです。
参考文献
WA Sands et al. Stretching and Its Effects on Recovery. Strength and Conditioning Journal. 2013, 35(5), 30-36