「野球を教える」から「野球で教える」に転換 日本一達成した田舎の少年野球チーム
小学校と連絡を取って選手の学校生活を把握
例えば、ある選手が全く挨拶をしないと小学校から聞いたら、チームでミーティングを開く。尾崎代表ら指導者は「近所の人や、グラウンドの近くを散歩している大人に挨拶できなかったら、スポーツマンとしておかしいよ。たった1人が挨拶できなかったり、マナーが悪かったりすると、チームとして見られてしまうから」と子どもたちに伝える。
この時、大事なことが2つあるという。1つは、大きな問題として取り上げないこと。指導者による注意や指摘は、子どもたちが挨拶について考えるきっかけになれば良い。もう1つは「なぜ、挨拶が大事なのか」を伝えることだ。尾崎代表は「昭和の時代は、ああしろ、こうしろ、行儀が悪いの一辺倒で、理由を説明する大人の義務を怠っていました」と反省し、理由付けの必要性を説明する。
「最近はコミュニケーションという言葉が盛んに使われていますが、人と人が話をする時には、挨拶をするとお互いが心を開きます。それから、自分の考えを言ったら伝わりやすいと子どもたちに言っています。単に『挨拶は必要、おはよう、こんにちはと言わなければいけない』というのは、強制になってしまいます」
強制は指導者と選手の間で健全な関係を築く弊害となる。選手の自主性も奪って、成長も妨げる。中条ブルーインパルスの指導者が子どもたちに伝えたいのは、野球を通じた社会性であり、スポーツの楽しさなのだ。尾崎代表は「少年野球は終着点ではなく通過点」と強調する。
「石川県を代表してというように、子どもたちに何かを背負わせたら、全国大会で結果は出なかったと思います。エラーしても三振してもいいから楽しもうというのが良かったと感じています。たまたま、勝っただけですから。チームが目指すのは6年生までみんなで一緒にやっていくこと、できれば先のステージでも野球や何かに熱中してもらうことです。そして、相手の気持ちを考えられる人間を育てることです」
中条ブルーインパルスにとって、全国大会優勝はゴールではなかった。ただ、日本一は「真夏の珍事」ではない。勝利至上主義から脱却し、選手に強制しない指導が、選手を成長させた証と言える。
(間淳 / Jun Aida)
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