肉離れは予防することができる? ハムストリングスに効果的な4つのストレッチ

肉離れを予防するための4つのストレッチ【写真提供:慶友整形外科病院リハビリテーション科】
肉離れを予防するための4つのストレッチ【写真提供:慶友整形外科病院リハビリテーション科】

ストレッチによって足にかかる負担は軽減する

 肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。実際に、練習中の投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。

 では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータ、簡単にできるトレーニングやストレッチなども紹介しています。今回の担当は齊藤匠さん、貝沼雄太さん。「ハムストリングス(太もも裏の筋肉)の肉離れ予防」について解説します。

 肉離れが起きる原因は依然として解明されていませんが、今までの研究でいくつかは特定されていて、柔軟性に乏しく筋肉の長さが短縮している、伸ばす筋肉と曲げる筋肉のバランス、筋肉の疲労、などと言われています。全力疾走を伴うスポーツでは肉離れが多く発生し、その中でもハムストリングスの肉離れは全体の37%を占めます(※1)。

 予防法としてはストレッチが有効です。筋肉が急速に伸ばされる時には、サルコメアと呼ばれる筋肉の線維に負担がかかります。この負担は筋肉の柔軟性が乏しいほど大きくなると言われています。逆に柔軟性が高いと筋肉の線維への負担は軽減し、筋肉がより長い状態で抵抗するため、その後の筋出力(発揮される力)が高くなることも報告されています(※2)。

 今回紹介する研究は、短距離の全力疾走をする前に静的(スタティック)ストレッチをした場合としない場合のハムストリングへの負担やスピードを比較したものです。10メートルの全力疾走を三次元的にカメラで撮影し、静的ストレッチを行った日と行っていない日に計測しました。結果は両者とも走るスピードに差はありませんでしたが、床からの反力(床反力)は静的ストレッチをしたほうが小さい結果となりました。これは走ったときの足全体にかかる負担が減ることを意味しています。

 アメリカスポーツ医学会(American College of Sports Medicine)は運動前の静的ストレッチを推奨していません。これについては、この連載「肩の怪我予防へ、本当に効果的なストレッチは? カギは“静”と“動”の組み合わせ」でもお伝えしました。運動前の静的ストレッチの後に動的ストレッチを取り入れるようにしましょう。筋肉の柔軟性が改善し、筋肉がより長くなることができると肉離れを予防し、強い力を発揮することができます。

※1 Ekstrand J et al. Epidemiology of muscle injuries in professional football (soccer). Am J Sports Med. 2011, 39: 1226-1232.
※2 Ruan M et al. Stretch Could Reduce Hamstring Injury Risk During Sprinting by Right Shifting the Length-Torque Curve. J Strength Cond Res. 2018, 32(8):2190-2198.

肉離れを予防するための4つのストレッチをやってみよう

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