“幼少期から野球一筋”に潜むリスク 故障の可能性につながる成長期での「専門性」

幼少期から1つのスポーツを専門的に行うと怪我を増加させる?

 肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。

 では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら、怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は貝沼雄太さん。テーマは「成長期における専門性について」です。

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 高いレベルでスポーツをするために、1つの競技を幼少期から行うことは珍しくありませんが、この傾向はスポーツ医学の観点からは疑問視されています。幼少期から1つの競技を専門的に行うことは、スポーツによる怪我を増加させると考えられており、長期的な活躍や成功につながらない可能性があるという報告もあります。今回はその影響についての研究を紹介します。

 1つの競技しか行わないことによって、特定の部位に常に負担がかかることになり、怪我をする可能性が上がります。1つの競技しか行わない選手は、複数の競技を行う選手に比べて、怪我をするリスクが4倍高かったと、ある研究では報告されています。複数の競技に参加することによって運動能力の発達が促進され、怪我をしない理想的な成長につながると考えられます。

 2004年のアテネ五輪に出場した選手の運動開始年齢を調べた研究では、専門的にスポーツを開始した年齢は平均11.5歳でした。早期にスポーツを始めた選手は、10代半ばに良い成績を残していることが多く、専門的にスポーツをする年齢が遅くなるほど、国際レベルでは年齢が高くなっても良い成績を残しているようです。

 複数の競技に参加することで、総合的な運動能力の発達が促進される可能性が考えられます。その一方で、成長期は週に16時間以上の運動を行うと怪我のリスクが高まると報告されています。適切な休養をとりながら、複数のスポーツに取り組める環境が重要と考えます。

 野球であれば、投手は野手よりも投球回数が圧倒的に多いため、肩や肘の怪我が生じやすいと考えられます。そのため成長期の野球選手には、投手だけではなく様々なポジションを守らせることも、運動能力の発達促進や怪我の予防に良い方法であるかもしれません。

▼参考文献
※1 Sugimoto D et al., Implications for Training in Youth: Is Specialization Benefiting Kids? Strength and Conditioning Journal, 39(2), 77-81

○古島医師が監修する肩・肘の故障予防アプリ「スポメド」のダウンロードはこちらから
https://info.spomed.net/

(First-Pitch編集部)

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