学生には「社会人野球に進んでほしい」 13年連続ドラフト指名…明大指揮官が明かす本音

明大・田中武宏監督(中央)【写真:中戸川知世】
明大・田中武宏監督(中央)【写真:中戸川知世】

3季連続Vの明大…田中武宏監督は2020年から指揮を執る

 社会人野球の日本一を決める「第94回都市対抗野球大会」が7月に東京ドームで行われ、トヨタ自動車の優勝で幕を閉じた。この春に東京六大学野球で3季連続優勝を果たした明治大学野球部の田中武宏監督は社会人野球出身。明大野球部は2022年ドラフトで村松開人内野手が中日から2位指名され、“史上最長”の13年連続指名となったが、指揮官は「学生には社会人野球に進んでほしい」と本音を明かす。

 田中監督自身も学生時代はプロを目指し野球に打ち込んでいた。「見ていない世界だから『どうなんだろうな』とは思っていましたが、(選手を)あれだけプロに送り込んでわかりましたよ。自分だったら2、3年でクビになって、やさぐれていると思います」。明大卒業後は社会人の名門、日産自動車(2010年休部)で8年間プレー。引退後は野球を離れ営業職に就き、2020年に明大監督就任と同時に同社を退社した。

 明大野球部は佐野恵太外野手(DeNA)や森下暢仁投手(広島)らプロで活躍している選手を多数輩出しているが、プロを希望する学生とはよく話をしているという。

「プロで活躍できる期間は長くない。引退後はセカンドキャリアを考えなければいけませんし、そのための準備をしておくべきだと思います。プロの選手から連絡があった時は『そろそろ先のことも考えながらやれよ』と言うこともあります。その点、社会人は安定していますし、大企業から何社も声をかけていただけることなんて滅多にないですからね」

 社会人野球も引退しなければならない時が来るが「野球を辞めても大丈夫であってほしい」という思いをもって、日頃から学生に接している。

野球引退後も活躍できるように…徹底する“人間教育”

「普通じゃ入れない大企業に野球で入る。周りは仕事のできる人たちばかりです。引退した後、仕事についていけないということがないように、しっかり教育しているつもりです。試験期間中は勉強に専念させますし、日常生活の面でも、『寝坊しない』『靴箱のスリッパを並べる』『寮内はお風呂上がりでも靴下を履くように』など、厳しく言っています。電車に乗る時も、明治のブレザー、ポロシャツを着ていれば『見ている人は見ているよ』と伝えています」

 毎年、学生たちには多くの企業から声がかかり、中には1、2年生の時から企業の練習に参加する選手もいる。「ここから先は、自分が行きたいから行ける世界じゃない。向こうから『来てください』と言われて行ける世界だからよく覚えておくようにという話はしていますが、本当にありがたいことです」。

 社会人野球に進んだ選手は、家庭の事情などを除き、引退後もほぼ会社に残って社業に専念しており「やれと言われたことを一生懸命やっていますよ」と、田中監督は目を細める。

 今年の都市対抗にも出場した三菱自動車岡崎でヘッドコーチを務めるのは、田中監督と同じくかつて日産自動車でプレーした伊藤祐樹さんだ。「伊藤も長年、真面目に社業に専念していたから声がかかったのでしょう。お客さんは野球で会社に入ったなんて知らない。大変なことも多いと思いますが、苦労はみんなするものです」。

 明大野球部には4年に上田希由翔内野手、3年に宗山塁内野手らプロ注目の選手が在籍している。ドラフトでの連続指名は途切れそうにない。一方で田中監督は、学生たちがどんな進路を選んでも困ることのないように、社会で通用する人間を今後も育てていくつもりだ。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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