58歳でも現役、投げ続ける女性左腕 遠方にも前泊で…“娘年代”に示す「野球愛」

女子硬式野球チーム「侍」の現役最年長左腕・千葉奈苗【写真:田中健】
女子硬式野球チーム「侍」の現役最年長左腕・千葉奈苗【写真:田中健】

誤植かもと思ったパンフレットの年齢は正しかった

 去る5月20日、女子野球タウンに認定された東京都府中市の市民球場で、ヴィーナスリーグの試合が開催された。ヴィーナスリーグは、女子硬式野球の普及発展を目的に、「U-15」「高校」「大学・企業・クラブ」の3カテゴリーに分かれて覇権を争っており、関東を主戦場にする同リーグ「リポビタン杯」は、巨人・西武の女子野球チームをはじめ、大学、企業チーム、クラブチームの計11チームで、2023年のリーグ戦を行っている。

 巨人-西武戦に続く第2試合。対「ゴールドジム」戦の先発マウンドに登ったクラブチーム「侍」の背番号「21」に、筆者は目を奪われた。セルロイドの白フレームのメガネ。銀髪。162センチ59キロの筋肉質。すべてが異彩を放っていたからだ。しかも、左腕から繰り出す投球は、人を食ったようにフワリと宙を舞い、相手打者を翻弄した。

 独立リーグにも外国人選手が入団する時代だ。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本のファンの心をワシづかみしたラーズ・ヌートバー外野手(カージナルス)のような2世選手の可能性もあるが、記者席からは確認できなかった。

 パンフレットのメンバー表と背番号を照合すると、10代、20代に交じって「57歳」と記載されている。誤植かもしれない。しかし、試合後に確認すると、千葉奈苗(ちば・ななえ)投手の年齢が正しかったことを知った。

「大洋ファンで、平松、松原、シピンの大ファンでした」

「乱視が強く、捕手のサインがよく見えないんです。メガネ屋さんに行ったとき、たまたまあった白いフレームをかけてみるとハマりました。スポーツを楽しみながらやるときに掛けるのだから、このくらい派手でもいいかなと思って。打撃の調子も上向きました」

 この7月に58歳と1つ年を重ねた千葉さんは、女子硬式野球界では知る人ぞ知るベテラン左腕。現在、現役としてプレーを続ける女子選手では最年長投手だ。「もともと大洋(現・DeNA)ファンで平松政次、松原誠、ジョン・シピンのファンだった」という。巨人女子チームの宮本和知監督もすれ違いざま、「お疲れ様~!」と気さくに声を掛けていく。

 女子硬式野球クラブチーム「侍」のメンバーは23人。14歳の女子中学生、17歳の女子高生、20代が18人、30歳が2人、そして58歳の千葉さんというメンバー構成だ。

 対戦チームの巨人や西武にも、高校を卒業したばかりの選手が続々と入団してくる。娘のような年代と一緒にプレーしていれば、当然、ジェネレーションギャップが生じることもある。「使っている言葉が通じないこともあるんです(苦笑)。年齢的に『少数派』なので(笑)、彼女たちに合わせるように努力しています」。

 とはいえ、17歳高校生の草木迫みお選手は、こう話す。「千葉さんは父親と同い年なんです。私が初めての硬式野球なので、『硬式ボールと金属バットのミートポイントは、もう少し手前だよ』などと、1から教えてくれました。悩み相談にものってくれる、人生の大先輩です」

 主将・蛭田菜月選手はこう語る。「ここぞの場面で登板し、緩急を駆使して打たせて取ります。私の守る三塁にゴロが多いときは好調ですね」。蛭田選手は23歳の3番・三塁手。U-18時代は日本代表だった実力者。「50代で野球を続けていることが、まず体力的にすごいですよ。登板予定がない試合でも、遠い球場で行われる試合でも、電車を乗り継いで必ずやってくるところに、野球への愛を感じます」。

 リーグ戦は週末、埼玉を中心に栃木、群馬、福島を転戦する。千葉さんは、遠方の試合ではビジネスホテルにひとりで前泊する。職業はスポーツクラブのパーソナルトレーナー。実は昨年、患った大病を克服して復活している。「生涯現役」を目指し、女子硬式野球を続けている。

(石川大弥 / Hiroya Ishikawa)

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