「笑われていた」日本一実現へ 東北の子の“気の優しさ”を解消した強豪シニアの指導術
日本一には理由がある…青森山田シニア・中條監督が明かす“ヒント”
昨夏の甲子園で仙台育英高が東北に初めて優勝旗をもたらして話題になったが、中学球界では一足早く全国制覇を成し遂げたチームがある。青森山田リトルシニアは2021、2022年の日本選手権で連覇を達成。2015年からチームを率いる中條純監督は、就任当初から“日本一”を公言してチーム作りに励んできた。頂点に立つには、確固たる理由がある。Full-Countでは、小・中学世代で日本一を成し遂げた12人の監督に取材。子どもの成長を促す“ヒント”を探っていく。
中條監督は24歳になる2015年に青森山田シニアの監督に就任。当初から「日本一を目指してチームを作ります」と公言していた。野球を楽しもうという機運がアマ球界で高まってきた時期。「時代に合っていないと思ったのですが、本気で日本一を目指そうというチームがあってもいいのではないかと。最初は笑われていましたけど、自分にプレッシャーをかける意味でも色々な場所で、そう話していました」。
激戦区の神奈川県出身で、横浜創学館高で主将を務めた。東北の子どもたちのポテンシャルに目を見張る一方、物足りなさも感じた。「純粋で素直な子ばかり。レベルは凄く高いんですけど、全国大会などの大舞台で『俺が俺が』と前に出られない。優しい所がどこかに出てしまうんですね」
そこで始めたのが“全国行脚”。和歌山、大阪、静岡、北海道などに出向いて強豪チームと練習試合を繰り返した。関東遠征では取手、佐倉、世田谷西、栃木下野といった全国屈指の強豪シニアの胸も借りた。指揮官の狙いは、同じ中学生という意識を選手に持たせること。全国レベルのチームとの対戦を経験することで「『これならいける』という気持ちに選手にさせてあげたかったんです」。強豪チームへの“気後れ”を解消させることで選手に自信が芽生えていった。
“金星”逃したサヨナラ負けが中條監督の糧に「こんなんじゃダメ」
“日本一”の手応えを掴んだのは1つの敗戦だった。2019年のジャイアンツカップ2回戦。強豪・東練馬シニアとの一戦はがっぷり四つの0-0で進み、6回に長打攻勢で3点を奪った。結局、追いつかれた末に延長サヨナラ負けを喫したが、「横綱を超えてくれると、手応えを得た瞬間でした」と振り返る。
一方で、悔しい敗戦により監督自身も教訓を得た。「勝てるかもしれないと、自分が浮ついてしまったんです」。先の試合を見据えた投手起用となり、試合中にトイレに行こうとした際に転倒するなど平常心を失った。「こんなんじゃダメ。足元を見つめてやらないといけないと痛感しました」。この敗戦が2年後の歓喜に結び付いていった。
重視するのは守備。これも選手に自信を付けさせるためだ。「これだけやってきたんだという強味を一つでも多く持たせたいと思っています。積み重ねを考えた時に、守備はすごく自分たちの盾になります。勝てるチームを作ろうと考えると、やはり守備になります」。
部員42人が同じ中学校に通う。中條監督は保健体育の教師。“密”な関係の中で、選手に自身を持たせる指導法で連覇を達成した。チームでの取り組みや方針は、中学球界で注目されるように。今月25日から5夜連続で行われる「日本一の指導者サミット」にも参加予定で、全国の指導者や保護者とともにチームづくりや育成期の指導法について考える。有言実行でつかんだ日本一。さらなる高みを目指し、子どもたちとともに成長を続けていく。