「練習も楽しくできないんですか」 保護者の声が転機…ストレス与えぬ指導で日本一
滋賀・多賀少年野球クラブは2018、2019年にマクドナルド杯連覇
手が届くところまで来ていた日本一が遠かった。滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督は、高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会「マクドナルド・トーナメント」と全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で計19回指揮を執っている。ただ、優勝したのは2018年が初めてだ。Full-Countでは小・中学世代で日本一を成し遂げた12人の監督に取材。あと一歩の力を引き出したのは、選手にストレスを与えない指導への転換だった。
今夏もマクドナルド杯に出場した多賀少年野球クラブは、2000年頃から全国大会の常連となっている。チームの所属選手は今でこそ120人を超えているが、長年30~40人ほどで推移していた。高学年の選手が少ない年は、小学3年生をレギュラーで起用していた。選手の体格で劣っていても全国大会で勝つために、辻監督が磨いたのは戦略だった。
「頭を使って走塁中心のチームをつくりました。相手の力が6、こちらが4でも戦略で勝利していました」
野球の上手さで勝つことはできた。ただ、周囲からは「ずるい」「せこい野球」などと批判された。その後、辻監督は日本一になるには「個」の育成が不可欠と感じた。それまで時間を割いていたエンドランで空振りしない練習やセーフティバントの精度を高める練習から、飛距離を伸ばしたり、打率を上げたりする練習へとメニューを変えた。
チーム方針を転換し、相手を力でねじ伏せる戦い方ができるようになった。だが、マクドナルド杯の決勝や準決勝まで駒を進めても、優勝に手が届かなかった。戦術を磨いても、個人の育成を重視しても日本一が遠い。辻監督は「もはや運でしかないのか? と考えるようになりました。成す術がなかったですね」と振り返る。
「練習も楽しくできないんですか」保護者の言葉が転機
打つ手がない中で出場した2017年のマクドナルド杯は初戦敗退。この後に実施した保護者アンケートが“ターニングポイント”になった。日本一は達成していなくても、毎年のように全国大会に出場していた辻監督は、保護者から賛同やねぎらいの声が集まると思っていた。しかし、予想を覆された。
「試合だけではなく、練習も楽しくできないんですか」
当時、「世界一楽しく!」をモットーに掲げていたものの、練習では厳しくなることが少なくなかった。上達する楽しさや試合で勝つ楽しさを知ってもらいたい気持ちが強くなり、大きな声を出していた。結果的に選手への“圧力”になっていた。
「良いチームになってきても改善点はあります。その時にきつく言ってしまうと、それまでに楽しく練習していてもトータルでゼロになってしまいます。選手にストレスを与える言動を一切やめました」
平凡なエラーや判断ミスが出ても、選手を怒鳴らない。辻監督は「あの打球は逆シングルで捕りにいかないと間に合わないな。次は頼むぞ」などと声掛けする指導に変えた。すると、選手の表情や野球に取り組む姿勢も一変。自主性が高まり、積極的なプレーも増えた。
チームは2018年にマクドナルド杯で悲願の優勝を果たすと、翌年に連覇を成し遂げた。「たまたま何かを変えただけでは日本一にはなれません」。戦術、「個」の育成、そして選手の力を最大限に引き出すストレスのない指導が揃っての頂点だった。
多賀少年野球クラブ・辻正人監督も“参戦決定”!
Full-Countと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では、9月25日から5夜連続(午後8時から)でオンラインイベント「日本一の指導者サミット」を開催する。小・中学生の野球カテゴリーで全国優勝経験を持つ全12チームから、手腕に定評のある監督たちがYouTubeライブに登場。指導論や選手育成術、円滑なチーム運営のヒントを授ける。詳細は以下のページまで。
【日本一の指導者サミット・詳細】
https://first-pitch.jp/article/news/20230902/5374/
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(間淳 / Jun Aida)
球速を上げたい、打球を遠くに飛ばしたい……。「Full-Count」のきょうだいサイト「First-Pitch」では、野球少年・少女や指導者・保護者の皆さんが知りたい指導方法や、育成現場の“今”を伝えています。野球の楽しさを覚える入り口として、疑問解決への糸口として、役立つ情報を日々発信します。
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