ブリッジもできぬ…中学軟式強豪の監督が“運動能力低下”に危機感 環境変化で広がる差

柔道場でブリッジを行う私立駿台学園中【写真:高橋幸司】
柔道場でブリッジを行う私立駿台学園中【写真:高橋幸司】

2022年の全中を制した駿台学園中は室内でのマット運動を実施

 2022年の全国中学校軟式野球大会(全中)で初優勝を果たした東京都北区の私立駿台学園中は、現在ヤクルトで活躍する清水昇投手や、今春の選抜で優勝した山梨学院高の林謙吾投手らを輩出してきた強豪だ。2011年に就任した西村晴樹監督は「日本一」の目標を掲げて守備・走塁に重点を置きつつ、高校以降も見据えた基礎体力強化にも取り組んでいる。Full-Countでは、小・中学世代で日本一を成し遂げた12人の監督に取材。西村監督はこの13年で、子どもたちの体力や、取り巻く環境の変化も感じ取っているという。

 専用グラウンドを持たない駿台学園中では、週2回ほど、学校の柔道場を利用してマット運動や走塁練習などを実施し、限られた練習環境の中で選手の能力・技術を高める工夫をしている。マット運動では倒立前転や側転、ブリッジウォークなどのバリエーション豊富なメニューを、トレーニングを担当する勝谷大コーチの指導の下で行っている。

 西村監督は、出身の日体大受験時に受験科目としてあったことから着想を得て、マット運動を取り入れた。しかし、「だんだんできる子が少なくなってきているんです」と、入学してくる子どもたちの運動能力低下を危惧する。

 マット運動の目的は、柔軟性やバランス感覚、空間認知能力を高めるため。「自分の体を自分の思うように動かせるようにするということ。マット運動がうまい子は野球などの球技もうまいです」。脇が柔らかく肩甲骨の可動域が広ければ、速いボールを投げることや送球技術の高さにつながる。しかし、今は「ブリッジをしても体が硬くて、胸が張れずに肘が落ちてしまう子が多い」と言う。

 以前は小学校の体育で、マット運動やドッジボールなど、基礎体力につながる授業が当然のように行われていた。ドッジボールは球をキャッチすることが体幹強化にもつながるが、しかし今では、怪我やいじめにつながると“廃止論”も聞こえてくる。公園で遊べば「うるさい」と言われる時代。中にはプールさえ経験がない子もいるという。

「運動能力の低下が叫ばれてる中で、できる子とできない子の差が、よりはっきりしてきている。『野球で全国を目指したい』という子が集まってくるうちでさえそうなんです」

駿台学園中・西村晴樹監督【写真:高橋幸司】
駿台学園中・西村晴樹監督【写真:高橋幸司】

「高校で花開いている様子を見るのはうれしい」

 生徒たちの変化というよりは、保護者の考え方も含めた周囲の環境や、スポーツの存在意義が変わってきているのが要因ではないかと指揮官は感じている。その中で試行錯誤しながら、中学生という精神面も含めて成長段階の年代と、学校生活から向き合っている。

「『日本一』とは言っていますが、実際は勝利より育成に時間をかけている。うちは中学で野球をやめる子がいないんです。中学3年間だと成長を実感しにくいところはありますが、高校で監督の求める野球ができて、花開いている様子を見るとうれしいですね」

 2022年の優勝メンバーは、持っているポテンシャルを出し切ることができたといい、今はその要因も考えながら指導する毎日だ。「甘やかし過ぎてもダメだし、厳しいだけでもダメ。プレッシャーを過剰にかけず、伸び伸びできる状態を作れるかだと思います」。西村監督は25日から5夜連続で行われる「日本一の指導者サミット」にも参加予定。勝利を求めながらも将来につなげる指導法は、特に中学生の年代の指導者の参考になるだろう。

私立駿台学園中・西村晴樹監督も“参戦決定”!

 Full-Countと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では9月25日から5夜連続(午後8時から)でオンラインイベント「日本一の指導者サミット」を開催する。小・中学生の野球カテゴリーで全国優勝経験を持つ全12チームから、手腕に定評のある監督たちがYouTubeライブに登場。指導論や選手育成術、円滑なチーム運営のヒントを授ける。詳細は以下のページまで。

【日本一の指導者サミット・詳細】
https://first-pitch.jp/article/news/20230902/5374/

【参加はTURNING POINTの無料登録から】
https://id.creative2.co.jp/entry

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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