少年野球で“声出し”できない子にイライラ 怒って萎縮はNG…考えるべきは「なぜ必要か」

リトルリーグなども指導した年中夢球氏【写真:伊藤賢汰】
リトルリーグなども指導した年中夢球氏【写真:伊藤賢汰】

声出しができない子どもを持つ保護者に年中夢球氏が助言

「バッチコイ」から始まる声出しは、少年野球ではよく見かける光景だ。グラウンドに「声出せー!」と指導者の檄が飛び、「元気だしていこー!」と保護者の声が重なる。だが、その声が出せない子もいる。ただ発声するだけなのに、できないわが子を見ていてイライラし、帰宅すると「なんで声出せないの!」と怒ってしまう……。

 どうしたら声を出せるようになるのかという小学2年生の息子を持つ母親の悩みを、リトルリーグなどの指導者経験も豊富で、野球講演家として活動する年中夢球さんにぶつけてみた。

 年中夢球さんは、子どもが声を出せない理由を3つ挙げた。

1 そもそも野球の知識がないから。
2 声を出す必要性がわかっていないから。
3 子ども自身の性格。

「声を出すためには、野球の知識が必要。野球のルールもまだ定着していない低学年の子なら単純に何を言えばいいのかわからないこともあるでしょう」

 元気がいいチームというイメージ作りに偏り、声出しをする本来の意味を指導者や保護者が、はき違えてしまっている残念なケースもあるという。

「プレー中に声を出すのは、たとえば投手を励ましたり、連携プレーの指示を出したりする時です」

 年中夢球さんは高学年の指導では「あえて声がけ・声出し禁止」でプレーさせることもあるそう。すると子どもたちは声を出さないと、飛んできた球をお見合いするなど、うまくプレーできないことが実感としてわかる。

 チームワークを高め、プレー中の意思疎通を確認し「チームが勝つために声を出す必要があるんだ」と子どもたちがわかれば、積極的に声をかけ合うようになる。ポジショニングやカバーに入るケースなど野球の知識がついてくれば、声も出しやすくなる。

「2年生なら、まだまだ難しい。これから野球を知るにつれ、プレーを重ねるにつれ、知識を得て声を出す必要性も理解し、自然と声が出るようになる。今からお子さんを怒っていたら、逆に萎縮してしまいます」

子どもの意見を聞き「なぜ声を出すのか」を話し合う

 それは3つ目の理由である性格にもつながることで、ここで年中夢球さんは「自分軸」と「他人軸」という言葉を使った。

「このお子さんは、もしかしたら何か言って間違えたら怒られるとか、みんなに笑われるかもとためらっているのかもしれない。それは自分が何を言うべきかよりも、周りや親からどう思われるかを考えている、つまり『他人軸』になっているということ」

 そしてこの悩みで1番のポイントは、「子どもの声出し」ではなく「親の声がけ」にあると言う。

「なんで声を出せないのかと問いただすのではなく、何のために声を出すのか、お子さんと一緒に考えながら話し合ったらどうでしょう。こんな場面では何て言うといいのかな?と聞いて、子どもの回答を否定せずに受け止める。その上で『こういう言い方や声出しもあるよね』と話す。なんでではなくて、何のためにという、次に向けて未来に向けて話すことが大事だと思います」

 子どもの意見をきちんと聞いて、前向きな話し合いをするよう心がけていけば、他人軸の子どもも、自分軸へと思考の転換がしやすくなる。自分がどう思われるかばかりに気をとられることなく、自分で言葉を選んで声出しができるようになる。それは素晴らしい成長だ。

 年中夢球さんは最後にこう言った。

「『なんで、できないの!』は過去へとつながる言葉。子どもにかけてあげたいのは、未来へつながる言葉です」

(大橋礼 / Rei Ohashi)

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